研究代表者のこれまでの研究結果よりMeCP2の新規標的遺伝子としてNF-κBシグナルの構成因子の1つであるIrak1を同定し、NF-κBシグナルの異常亢進がMecp2欠失マウスの表現型に関与していることを明らかにした。本研究計画においてはPCRアレイを用いてMecp2欠失マウスにおけるNF-κBシグナル関連遺伝子の発現解析を行い、どの下流因子がMecp2欠失マウスの表現型に関与しているか解析を行った。 NF-κBシグナル関連遺伝子84個を網羅したSABiosciences社のPCRアレイを用いて、Mecp2ノックアウトマウス脳におけるNF-κBシグナル関連因子の発現変化を解析した。8週齢(個体レベルでの表現型が顕著に表れている時期)で野生型とMecp2ノックアウトcortexから3つずつRNAを採取し、野生型とMecp2ノックアウト(Mecp2 -/y)のlittermate3組について上記のPCRアレイを用いて比較解析を行った。その結果、IL6やTNFを含む多数の下流因子がMecp2ノックアウトcortexにおいて発現が上昇していることを明らかにした。そのうちTnfに関しては研究代表者が設計したプライマーを用いて個別のqPCRを行い、Mecp2 -/y cortexで上昇していることを再確認した。 これらの結果より、MeCP2欠失により過剰発現したIrak1によりNF-kBシグナルが亢進し、その下流に位置するTnf遺伝子の発現異常を通じて、Mecp2ノックアウトマウスの病態が引き起こされている可能性を裏付けることができた。近年、自閉症患者おいて免疫系遺伝子の脳における異常発現が指摘されており、自閉症スペクトラム障害の1つであるレット症候群においても同様の発症メカニズムが関与していることが示唆される。
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