脊髄小脳失調症7型(SCA7)は網膜変性を伴う遺伝性神経変性疾患で、疾患関連蛋白ataxin-7内のポリグルタミン鎖の異常伸長を原因とする。変異ataxin-7蛋白と強く結合する蛋白としてアミロイド前駆蛋白ファミリー蛋白APLP2を見いだしたが、網膜でのアミロイド前駆蛋白の発現についてはこれまでに充分に解析されていない。研究ではSCA7の網膜変性の機序解析の為に、SCA7モデルマウス、正常コントロール、疾患コントロールとしてアルツハイマー病モデルマウスの網膜組織を用い、アミロイド前駆ファミリー蛋白APP/APLP2の発現変動、核内ドメインの変動、視細胞の核配列を制御する因子の変動を解析した。SCA7マウスでは視細胞層は高度に萎縮し、ataxin-7の核内凝集体は神経節細胞層、内顆粒層、外顆粒層、色素上皮細胞層に認められた。アルツハイマー病モデルマウスでは網膜の萎縮は明らかではなかったが、APLP2の凝集はアルツハイマー病モデルマウスのみで観察され、解析の結果、視細胞の内節で特に強く凝集していた。正常、アルツハイマー病の網膜では、RNA代謝に関与する核内ドメイン、Cajal小体、スプライソソームは同定し難かったが、SCA7モデルマウスでは視細胞の核に明瞭なスプライソソームが同定された。また、SCA7では視細胞の核配列を調整するSUN-1の凝集が確認されたが、これらの凝集とataxin-7の凝集との明らかな関連は見いだせなかった。リン酸化タウ、リン酸化α-シヌクレイン、リン酸化TDP-43の凝集はいずれの網膜においても観察されなかった。SCA7の網膜ではRNA代謝の変動、核の配列の制御異常が生じている可能性が示唆された。網膜視細胞での核内構造の解析は極めて難しいが、今回の研究でSCA7の視細胞の構造変化についての知見が得られたことは、網膜変性疾患の病態解析に向けての端緒となる。
|