前年度に引き続き,シナプス関連タンパク質の解析およびタウタンパク質研究用の新規モデルマウス開発を実施した。 シナプス関連タンパク質の解析に関しては,これまでに,そのタンパク質がグルタミン酸受容体と結合するのに重要な部位を同定している。そして,同定した部位に変異を導入することで,受容体との結合強度が大きく変化することを見出している。本年度においては,着目している部位を別のアミノ酸に置換したり,欠損させたりしたタンパク質の細胞内局在を,in vitro live imaging法を用いて観察した。その結果,着目している部位が,タンパク質自身どうしの結合に重要な役目を果たしていることを明らかにすることができた。これによって,現在着目しているタンパク質間の結合・乖離のメカニズムを明らかにすることができた。 新規モデルマウスの開発は,ある軽度な刺激をマウスに施し,タウタンパク質のリン酸化を引き起こすものである。前年度に引き続き,実験条件の最適化等の検討を実施した。その過程で特許出願をした。 また,本モデルマウスの解析をすることは,アルツハイマー病等の発症機構を理解する一助となることが考えられる。そのため,リン酸化に寄与する酵素類の解析は無論のこと,遺伝子発現解析も併せて実施し,全容の解明に取り組んだ。興味深い結果が得られており,研究に大きな進捗が認められた。 研究期間全体を通じ,マウス内在性のタウに着目した独創的な研究が実施できた。タウには我々の知らない未知の機能が隠されている可能性があり,その鍵を握るタンパク質を見出すことができた。また,タウの生理機能を理解する上で,次世代を担う新規モデルの作出に成功した。これらの成果は,アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患に新しい切り口を提供するものであると考えられる。
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