人口の1%が発症すると考えられている統合失調症は認知機能障害を主症状とする精神疾患であるが、未だその脳病態の詳細は明らかになっていない。統合失調症治療薬の多くはドーパミンD2受容体(D2R)の遮断作用を有しており、PETを用いたIn Vivo イメージングによる臨床研究によっても統合失調症患者では線条体外のD2R機能に障害がある可能性が示唆されている。しかしながら、そのD2R機能障害の詳細なメカニズムは明らかになっていない。そこで、近年、有力な統合失調症モデル動物の一つと考えられているMaternal immune activation model rat (MIA ラット)の線条体外ドーパミンD2受容体(D2R)をIn Vivo イメージングし、更にそれによって変化が見られた部位について生化学的及び組織学的解析を行った。MIAラットの線条体外の全脳のD2Rを11C-FLB457(D2R specific raioligand)を用いたPET測定によってイメージングしSPM解析を行ったところ mPFCにおいて結合能の低下が明らかになった。更にその部位において、D2R発現の低下及びパルブアルブミン(PV)陽性細胞の減少が確認された。D2RはPV陽性インターニューロン上にも多く発現していることから、In Vivo イメージングによって明らかになったmPFCのD2R機能障害の背景にはPV陽性インターニューロンの減少があることが示唆される。この知見は臨床研究結果から提唱された統合失調症病態仮説である『内側前頭前皮質インターニューロンに発現するD2R機能の障害』を一部裏付けていると考えられる。MIAモデルは統合失調症に非常に近い脳の病理を有していることから、今後、MIAモデルを詳細に調べることで臨床研究では困難であった神経回路レベルの障害について解明出来る可能性が予想される。
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