研究課題
アルツハイマー病やパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症患者の多くは家族歴のない孤発性発症であるにも関わらず、既存のモデルマウスは遺伝子変異を組み込んだトランスジェニックマウスでした。このため、トランスジェニックマウスでは孤発性発症の病態を反映したモデルとならない可能性が指摘されています。そこで当該年度は前年度に引き続き、孤発性神経変性疾患モデルマウスの作成に注力してきました。本研究では野生型マウスを用い、その脳内に患者脳と同様の変化(異常タンパク質の蓄積)を誘導できるか検討を行ってきました。具体的には、パーキンソン病やレビー小体型認知症患者脳内で蓄積しているαシヌクレインタンパク質に着目し検討を行いました。マウス脳内に可溶性のリコンビナントαシヌクレイン、または線維を注入し、αシヌクレイン蓄積がみられるか検討を行いました。その結果、αシヌクレイン線維接種群では接種後3ヶ月でリン酸化αシヌクレイン陽性の病理構造物が出現し、接種後15ヶ月では接種したほとんどすべての個体でリン酸化αシヌクレイン陽性のレビー小体様構造物が認められました。この病理構造物は抗ユビキチン抗体、抗p62抗体陽性であり、患者脳でみられる病理と同じ免疫染色性を示す事が明らかになりました。一方、可溶性αシヌクレイン接種群ではレビー小体様構造物の出現は認められませんでした。以上の結果から、αシヌクレイン線維の脳内接種のみで野生型マウス脳内に患者脳と同様の病理構造物を形成させることが可能となりました。この成果は英国科学雑誌Brainに投稿し、2013年3月号に掲載されました。
2: おおむね順調に進展している
当該年度は孤発性神経変性疾患モデルマウスを確立し論文発表できたため、本研究において最も重要な課題をクリアすることができたと考えています。今後はこのモデルマウスを用いて発症・進行メカニズムの解析と新規治療法のスクリーニングに注力していく予定です。
当該研究費により孤発性神経変性疾患モデルマウスを確立する事ができました。今後はこのモデルを用いて発症メカニズムの解析と新規治療法開発の検討を進めていく予定です。具体的には3つのテーマが挙げられます。(1)αシヌクレイン線維の接種部位の検討 : 接種部位により病理の出現部位の違いがあるか、病理の伝播メカニズムについて解析を行う。また、病理の出現部位により表現型(行動試験・運動試験)にどのような異常が認められるか検討する。(2)孤発性神経変性疾患モデルマウスを用いた新規治療法のスクリーニング : 抗体療法、免疫療法やαシヌクレイン凝集阻害化合物の治療効果を検討する。(3)タウやTDP-43などの蓄積タンパク質についても脳内接種により病理が形成・伝播するか検討 : 神経変性疾患の発症・進行メカニズムの共通性について調べる。
上記の研究推進方策を進めるにあたり、動物購入費の増加を予定しています。また、抗体などの試薬代、モデルマウスの行動解析に関する書籍代、学会発表の旅費、論文の掲載費などを予定しています。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
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http://www.igakuken.or.jp/research/topics/2013/0307.html