多発性硬化症(Multiple Sclerosis: MS)は中枢神経系における炎症および脱髄を伴う再発・寛解を繰り返す自己免疫疾患であり、特定疾患に指定されている。本邦における罹患者数は増加傾向にあり、好発は20-30歳代の女性に多く、少子化にも少なからず影響を与えている。しかしながら、根治療法はなく、ステロイドなどによる対症療法が主流となっている。したがって、根治療法を目指した治療戦略を立てる上で、有効なターゲット分子の同定とともに発症機序の解明が望まれている。 そこで本研究では、オリゴデンドロサイトが発現する脱髄関連プロテアーゼ(Kallikrein 6: KLK6)に着目し、KLK6を介した多発性硬化症の発症機序の解明を試みた。具体的には、野生型マウスおよびKLK6ノックアウトマウスにマウス多発性硬化症モデルであるExperimental Autoimmune Encephalomyelitis(EAE)を誘導し、EAE発症時におけるKLK6を介した脱髄分子機序の全貌の解明を試みた。 脱髄関連因子であるKLK6のノックアウトマウスを用いて多発性硬化症モデル(EAE)を誘導したところ、発症が遅延し症状も軽減した。また、組織学的検討によりKLK6ノックアウトマウスでは血液脳関門が比較的維持されており、末梢からの炎症細胞の浸潤が抑制されていることが明らかとなった。さらに、血液脳関門の破綻や脱髄への関与が示唆されているMMP-9の活性化にKLK6が関与していることを見出した。 これら一連の研究成果はKLK6が多発性硬化症発症の鍵となる因子であり、治療戦略の標的分子となり得る可能性を示唆するものと考えられた。
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