研究課題/領域番号 |
23700442
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
篠崎 陽一 山梨大学, 医学工学総合研究部, 講師 (10443772)
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キーワード | ATP |
研究概要 |
昨年立ち上げたwound healing assayを用いて、アストロサイトの機械的傷害によって引き起こされる突起伸展に対するATP及びP2受容体の役割を検討した。Apyraseを加えて細胞外ATPを分解すると突起伸展の速度が増加した。また、PPADSやreactive blue-2などのP2受容体アンタゴニストも同様に突起伸展速度を増加したことからP2受容体を介したシグナルが突起伸展に対して抑制的に作用すると考えられた。各種P2受容体サブタイプ選択的アンタゴニストやsiRNAなどを用いて検討を行ったところ、P2Y1受容体がその責任受容体である事が明らかとなった。P2Y1受容体ノックアウトマウスを入手し、このマウスより調製したアストロサイトの突起伸展速度は薬理学的評価と同様にWild typeのものに比べて速かった。VNUTノックアウトマウスより調製したアストロサイトでも同様に進展速度が速いことから、アストロサイト自身がVNUTを介して放出するATPは自身または周辺のアストロサイトのP2Y1受容体に作用することで突起伸展を抑制的に制御する事が明らかとなった。また、突起伸展に関わる細胞内シグナル分子としてSTAT3やAkt, GSK3などを同定した。 In vitroで得られた知見が病態生理学的にどのような役割を持つかについて更に検討を行うため、in vivoトラウマモデルを作成した。このモデルでは傷害部位を取り囲むようにグリア瘢痕が形成される。In vitroでの突起伸展速度はグリア瘢痕形成速度に関連がある事が過去の報告より示唆刺されていることから、今後はこのモデルを用いてメカニズムを詳細に解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はwound healing assayを用いて傷害によってアストロサイトより放出されるATPが傷害部位への突起伸展を抑制する事、ATPはアストロサイト自身に発現するP2Y1受容体に作用する事などを明らかとした。更に、この現象の病態生理学的な役割を明らかとするためin vivoトラウマモデルを作成した。関連して、in vivoでの神経細胞死の評価系としてFluoro-Jade染色法並びに免疫組織化学染色との組み合わせの実験系を立ち上げた。内在性のATP分解酵素活性を評価するため、Enzyme histochemistry法の実験系も立ち上げた。細胞外へのATP放出を評価するため、マイクロダイアリシス法の準備を行い、実際にATPが回収出来ることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は主にin vivoモデルの解析を中心として研究を推進していく。In vitroモデルで観察されたようにATP/P2Y1受容体シグナルがグリア瘢痕形成にどのように作用するか、またその役割を検討する。具体的には抗GFAP抗体を用いた免疫組織化学染色による評価とFluoro-Jadeやその他細胞死マーカーを用いた神経細胞死の評価である。グリア瘢痕形成の調節と神経細胞死との間をつなぐメカニズムについてはミクログリアや末梢から浸潤した炎症細胞から放出されるサイトカインやreactive oxygen speciesの産生に着目して解析を進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該研究費が生じた状況は、蛍光タンパクタグを負荷したコンストラクト及びそれを用いた強制発現の実験が計画していたように進行せず、その後の実験に着手できなかったためである。 次年度以降に請求する研究費と合わせた使用計画は以下の通りである。 設備備品費:本課題に用いる設備は全て所属する研究グループにセットアップされたもの並びに所属大学の共通機器を利用することを予定しているため、計上しない。 消耗品費:初代培養細胞調製のための妊娠動物費及びin vivoモデル動物費60万円を計上した。RT-PCRプローブ、キット、ELISA、抗体、ウェスタンブロット用試薬など各種消耗品費70万円を計上した。 旅費:本研究課題により得られた成果発表のための費用を国内会議1回(5万円)及び国際会議1回(20万円)で計上した。 人件費・謝金:原著論文作成時の校閲5万円を計上した。
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