研究課題/領域番号 |
23700445
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長谷川 孝一 大阪大学, たんぱく質研究所, 助教 (20546783)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 脳神経疾患 / 視床下部 / エネルギー代謝 / Sirt1 / アセチル化 |
研究概要 |
本研究はNecdin-Sirt1複合体による代謝関連因子のアセチル化修飾の調節と、プラダー・ウィリー症候群(PWS)をはじめとする肥満や摂食障害におけるエネルギー代謝異常との相関に迫るものである。申請時に研究計画調書に記載した通り、平成23年度は視床下部における代謝調節の分子機構と生理学的意義について、Sirt1の基質であるフォークヘッド型転写因子Foxo1に着目し解析した。Foxo1は摂食促進因子AgrpとNpyの2つの神経ペプチドの転写を正に制御しているが、ChIPを用いた解析により、Agrpプロモーター上にnecdinとSirt1が共に結合している事が明らかとなった。この事と以前の研究成果から、necdin-Sirt1複合体はFoxo1の脱アセチル化を介して転写を抑制的に作用していると考えられた。また、necdin欠損マウスの視床下部の弓状核において、AgrpとNpyの発現量が高い事が、顕微測光による定量的な解析により判明した。これらの事から、摂食量を測定したところ、野生型とnecdin欠損マウスに変化はみられなかった。次に、これら2つの神経ペプチドが抑制的に作用するTRHに着目した。TRHは視床下部の室傍核に存在し、脳下垂体のTSH、甲状腺ホルモンT4及びT3を介して熱産生の亢進に関与しているが、これら4つのホルモン量はいずれもnecdin欠損マウスで顕著に減少していた。また、このマウスの直腸温は約2度低い事が明らかとなった。この現象は4週令の離乳期に特異的にみられたが、PWSの幼児期には体温調節の異常がみられることから、この症候群の分子基盤の解明の一端が明らかとなったと考えられる。この研究成果はThe Journal of Neuroscienceに受理された(印刷中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べた様に、中枢神経系における解析は計画通り進行し、達成する事が出来た。一方で、末梢組織におけるnecdin-Sirt1複合体の役割に関しては、それに係る実験材料の準備に時間を要し、解析に踏み込める程度に至らなかった。しかし、今後の実験において重要なツールになると考えられるPGC-1alphaのウサギに免疫したポリクローナル抗体の作成に成功し、次年度の研究の進行に大いに期待出来ると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の研究実績から、necdin-Sirt1複合体はエネルギー産生に寄与する事が示唆された事から、エネルギー代謝の中核を担うPGC-1alphaの分子制御機構と生理学的意義の検討を中心に研究を進める予定である。PGC-1alphaはATP合成に関与するミトコンドリアの生合成や熱産生に関わる遺伝子の転写を補助的に調節している。近年、ミトコンドリアの機能異常や破綻は、代謝疾患のみならず、神経変性疾患の分野でも注目されており、本年度はミトコンドリアの制御機構におけるnecdin-Sirt1複合体の役割について検討し、代謝疾患や神経変性疾患の予防や治療法の探索について考察する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は自身が所属する蛋白質研究所の動物飼育施設のクリーニング(SPF)に伴い、necdin欠損マウスを用いた解析が必要最低限に抑えられた。これは科研費申請時には予定されていなかった事で、平成23年に入り、決定、施行されたものである。このため、大幅な予算執行の変更を余儀なくされ、23年度分の多くを、24年度に持ち越して使用する予定である。また、新規代謝関連因子の探索のために、マイクロアレイを用いた解析を行う事により、新たなnecdin-Sirt1複合体の標的因子の発見を目指す。この様な網羅的解析には一定額の研究費が必要であるが、23年度から繰り越した予算を執行する予定である。分子レベルで一定の研究実績が得られた場合、これが生理学的意義を有するかを検討するために、レンチウイルスベクターを用いた解析を行う予定である。次年度に割り当てられた研究費の大半はこの系の確立部分と、実験に供するマウスの確保と維持に充てる。
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