大脳皮質形成において神経細胞の核内空間における染色体やクロマチンを含めた分子の動態は、遺伝子発現制御のメカニズムとして神経細胞分化さらには神経回路の形成・維持・可塑性の重要な要因になりうる。本研究は、大脳皮質の神経細胞分化おけるクロマチン構造制御をイメージングの手法を用いて分子の核内配置と時空間的動態を詳細に解析することで明かにすることを目指している。 本年度の研究では、1)転写の場の時空間的動態をイメージングにより計測する技術として、細胞核内の蛍光標識した転写因子を1分子レベルでイメージングすることに成功した。また、輝点として捉えられた1分子の転写因子の動態を画像解析ソフトウエアを用いて追跡し、定量的に解析した。その結果、野生型のタンパク質と認識塩基配列への結合能が欠損した変異体タンパク質では異なる動態を示すことが明らかとなった。以上のことから、生細胞の核内で転写の場の動態をイメージングにより計測する新しい実験系を確立することが出来たと考えている。2)神経細胞分化においてクロマチン構造制御への関与が示唆されるDNA修復の役割の解明を進めるため、塩基除去修復酵素群の一つであるDNAポリメラーゼβ(Polβ)に着目して動態を調べた。発生期の大脳皮質形成において発現時期が異なる遺伝子のプロモーターを用いたCREマウスを複数系統使用してPolβコンディショナルノックアウトマウスの解析を行った。その結果、Polβは神経細胞分化の過程で一過的に必要な時期があることが示唆された。したがって、Polβは、神経細胞分化おいてグローバルなDNA修復のみならず、時期に限定された役割を担っていることが考えられる。
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