研究課題/領域番号 |
23700448
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
鳥山 道則 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 研究員 (90457151)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 発生・分化 / 神経科学 / 軸索 / 成長円錐 / Shootin1 / Netrin-1 / クラッチ分子 |
研究概要 |
神経細胞は、1本の軸索と複数の樹状突起を有し機能する。培養神経細胞を用いた解析により、神経細胞は細胞内に備わる自律的な機構を利用し、複数の未成熟な神経突起の中から1本の軸索を形成する性質を有することが解っている。一方、発生時期の脳内においては、軸索の形成およびその伸長方向は規定されている。脳内の神経細胞は細胞外シグナルの制御を受けることで、軸索形成を行うと考えられている。しかしながら、軸索形成の方向性を制御する細胞外シグナルおよび細胞内の分子機構に関する知見は殆ど得られていない。本研究では、細胞外分子Netrin-1と細胞内で軸索形成を担う分子であるShootin1に着目し、細胞外シグナルが制御する軸索形成機構の解析を進めた。 神経細胞の軸索形成は細胞外分子Netrin-1により促進される。この際、Netrin-1はリン酸化酵素Pak1を介してShootin1のリン酸化を促進する。リン酸化によりShootin1の分子構造は変化し(分子内相互作用の解離)、アクチン線維との結合親和性が上昇する。その結果、Shootin1は「クラッチ分子」として機能することで、突起伸長に必要な牽引力の発生を行う。これらの結果から、細胞外分子であるNetrin-1はShootin1の活性制御を行い軸索の形成を促進すると考えられた。 次に、脳内における軸索形成機構の解析を行った。作製したShootin1ノックアウトマウスの表現型は、Netrin-1やDCC(Netrin-1受容体)のノックアウトマウスの表現型と酷似しており、脳梁、海馬交連の形成不全など脳構造に顕著な異常を示した。これらの結果から、細胞外シグナルが制御する軸索形成と脳組織の形成においても、Shootin1の関与が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Shootin1のSer101、Ser249のリン酸化を特異的に認識するリン酸化抗体を用いた解析から、Netrin-1の刺激によりこれら2か所のリン酸化が促進されることを明らかにした。その詳細な機構として、Netrin-1によりCdc42、Rac1の活性化が誘導されリン酸化酵素Pak1と結合しPak1の活性化を引き起こす。そして、Pak1によりShootin1がリン酸化される。この一連のシグナル伝達機構を明らかにした。また、リン酸化型Shootin1は神経突起先端に存在する成長円錐に強く濃縮することから、リン酸化がShootin1の細胞内局在を制御することを見出した。これらの解析から、これまで不明であった細胞外シグナルによる軸索形成分子Shootin1の活性制御機構を明らかにでき、研究は予想外の発展がみられた。
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今後の研究の推進方策 |
Shootin1はクラッチ分子として機能することでアクチン線維の運動エネルギーを接着分子に伝達することで、突起伸長に必要な牽引力の発生に関与する。そこで、Traction force microscopyを用い神経軸索先端で発生する力の計測を行う。特にShootin1の発現を抑制した場合やリン酸化量を変化させた場合や、Netrin-1の刺激を加えた場合に成長円錐で発生する力がどのように変化するか解析する。 さらに、Shootin1のリン酸化修飾による活性制御が脳形成時にどのような働きをするか解析する。すでに作製したShootin1ノックアウトマウスにShootin1の野性型、非リン酸化型あるいは疑似リン酸化型を子宮内電気穿孔法により導入する。この脳切片を培養し軸索が形成される様子をタイムラプス顕微鏡で観察する。野性型の発現により正常な軸索形成が回復され、非リン酸化型Shootin1では軸索形成が抑制されたまま留まる、そして、疑似リン酸化型では軸索の形成促進が認められれば、Shootin1のリン酸化による活性化が必要であると結論づけられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画の変更により研究費の前倒しを行ったが、研究の進捗状況に合わせ予算執行計画を変更したところ未使用額が生じた。未使用額を含めた次年度の研究計画は次の通りである。 本研究の遂行に際し、培養神経細胞および組織を得るために実験動物(マウス、ラット)、細胞培養に必要な培地、血清やガラスプラスチック器具、遺伝子導入やライブイメージングに必要なDNA作製のための分子生物学試薬が必要であり、これらの購入に使用する。また、学会や論文発表により研究成果の対外的発表を積極的に行うため、学会参加費や旅費、英語論文校閲のための費用も必要である。
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