研究課題/領域番号 |
23700449
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
石川 保幸 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (90346320)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 神経可塑性 / 連合記憶 / シナプス・タグ / ニューロプシン |
研究概要 |
1997年FreyとMorrisは連合記憶・学習のモデルであるシナプスタグ仮説を提唱した。かれらは2つの独立したシナプス入力に強刺激と弱刺激を与え、互いに影響し合うかどうかを検討している。ここでの強刺激はタンパク質合成を必要とする長期にわたりシナプス伝達効率が持続するlate-LTPを誘導し、弱刺激はタンパク質合成に依存しない短期的なシナプス伝達効率の変化(early-LTP)を誘導する。この、刺激強度の異なる刺激を独立したシナプスに入力すると、本来、短期間で伝達効率が減衰する弱刺激を入力したシナプスが、長期間シナプス伝達効率を維持するようになる事、つまりearly-LTPからlate-LTPに変換される事を見いだした。この変換された長期にわたる伝達効率の維持は驚くべき事にタンパク質合成に依存せず、強刺激によって誘導される既に合成された可塑性タンパク質に依存している事が明らかとなった。つまり強刺激によって誘導された可塑性蛋白質と弱刺激によって形成されたシナプス活動の目印である"シナプス・タグ"との機能的相互作用が長期伝達効率の維持を引き起こすのである。本研究によりシナプス・タグ形成にはニューロプシンという分泌型セリンプロテアーゼが重要な働きを持ち、LTP特異的なプロセスにのみ関与する事が明らかとなった。また、LTDのプロセスには関与していないことも明らかとなり海馬での複雑な情報処理を担っているようである。この、細胞内シグナルカスケードにはintegrinB1およびCaMKIIが関わる事が示唆された。さらに興味深い事にLTPプロセスとLTDプロセスは両者間で連合する事もわかり、より複雑な連合記憶メカニズムに関わる事ができることも明らかになった。これらの知見は、例えば、記憶情報処理の異常で発症すると考えられているPTSDなどのメカニズム解明に役立つと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ、LTP特異的なプロセスにニューロプシンおよびCaMKIIが関与する事がわかった。さらには、より複雑な情報処理を海馬が行っている事が明らかになった。これらの事は、学会および学術論文にて報告した。今回、LTPとLTDといった異なる可塑性プロセスが相互にまたおそらくシナプスレベルで影響し合う事が明らかになりこれは当初の計画通りにおおむね進展しているかと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、まだ不明な点が多いLTDプロセスにどのようなシグナル分子が関与するかを明らかにしたい。特にLTPとLTDのシグナル変換分子として注目されているGSK3やmTORがLTDプロセスに関与しているのか、また関与している場合どのようなシグナルを介しているかを明らかにしたい。また、本研究において、シナプス・タグの形成機構の一部が明らかになったがセリンプロテアーゼ・ニューロプシンの基質がまだ不明な点が多く残されている。分子的メカニズムの詳細な解析をニューロプシンが中心としたトップダウン、ボトムアップのシグナル解析を行う事でシナプス・タグ形成の全容が明らかにできると確信している。また、分子的メカニズムの解明と同時に実際に個体レベルでの解析が必要になってくる。これは、個体がどうやって連合記憶を行うのか?、また、これまでの知見から記憶が環境要因によって影響を受ける事が知られているが、そのメカニズムにシナプス・タグのシステムが関係しているのかも明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度未使用額が生じた要因は、研究の進捗状況に合わせ予算執行計画を変更した事に伴うものである。次年度の研究費の使用計画は、以下の通りである。急性海馬スライスを用い独立二経路シナプス刺激実験によってシナプス・タグの形成機構を解明し、シナプス・タグを同定したい。まずシナプス・タグ分子の同定およびシナプス・タグ形成機構の解明を行う。今回得られた知見よりシナプス・タグ分子がどのように機能しているのか?を電気生理学的アプローチにより明らかにして行きます。引き続き、急性スライスを用いた電気生理学的な実験系を駆使し、研究を遂行していきたい。特に、GSK3やmTORの薬理的実験系への使用を計画している。また、分子的メカニズムの解明と同時に実際に個体レベルでの解析が必要になってくる。本研究にあわせ個体レベルの解析も進めていきたい。
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