伸長中の軸索先端部に存在する成長円錐は,外環境中の誘引性あるいは反発性の軸索ガイダンス因子を認識し,軸索を定められた標的まで牽引する。成長円錐は複数種の因子に同時に遭遇するため,それらの情報を統合し,進路を決定すると考えられる。多くの誘引性因子はcAMPの,反発性因子はcGMPの上昇を促すことから,これらのシグナルによって何らかの進路決定因子が拮抗的に制御される可能性が考えられる。そこで,本研究課題では,cAMPとcGMPによる微小管動態の拮抗的制御によって,成長円錐の進路が決定される可能性を検討する。 前年度までの,ケージド化合物による人工的なシグナルを用いた研究によって,cAMPとcGMPは微小管およびVAMP7小胞動態を制御することで成長円錐の進路を決定するというモデルを提唱するに至った。平成25年度は,生理的ガイダンス因子による軸索誘導にもこれと同様の機構が関与する可能性を検討した。PACAPは軸索を誘引することが知られている。まず,PACAPの濃度勾配に曝された成長円錐内で非対称的にcAMPが上昇することを確認した(高濃度PACAP 側でより大きな上昇)。続いて,PACAP濃度勾配存在下で微小管およびVAMP7小胞動態をライブイメージングにより解析したところ,cAMP上昇側で微小管伸長およびVAMP7小胞輸送が促進されることが明らかとなった。さらに,PACAPによる軸索誘引は微小管動態およびVAMP7機能阻害によって消失した。 これらの結果は,前年度までに提唱したモデルが生理的因子による軸索誘導にも適用可能であることを示している。
|