研究課題/領域番号 |
23700464
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
辛島 彰洋 東北大学, 情報科学研究科, 助教 (40374988)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 睡眠 / 大脳皮質 / シナプス可塑性 |
研究概要 |
睡眠には、エネルギーの節約、解毒、脳温調節など様々な機能があると考えられてきたが、最近は脳の可塑性への関与が注目されている。例えば、神経ネットワークのつながりを弱める、すなわちシナプス伝達効率を下げる働きが睡眠にはあるという仮説が様々な角度から証明されている。本研究では、動物実験によりこの仮説を検証する。 本年は、in vitro実験により、その検証を行った。以下に本年行った実験結果をまとめる。睡眠を多く占める動物(明期終了時に断頭:睡眠群)と、覚醒を占める動物(暗期終了時に断頭:覚醒群)から取り出した大脳皮質スライス標本を実験に用いた。大脳皮質の第IV層から第II/III層錐体細胞への興奮性シナプスにおいて、上記の仮説が成り立つかどうかを検証するため、第IV層に刺激電極を配置し、第II/III層の錐体細胞をガラス電極でパッチクランプした。パッチした電極では、電位固定した状態で電流応答(eEPSC)を記録した。シナプス伝達効率が下がるとき、Ca透過性のAMPA受容体は減少することが知られているので、本研究では、Ca透過性のAMPA受容体の拮抗薬を投与したときに、eEPSCの振幅に影響があるかどうかを調べた。その結果、覚醒群の標本では拮抗薬投与後にeEPSCの振幅が有意に小さくなること、睡眠群の標本ではeEPSCの振幅がほとんど変化しないことが分かった。この結果は、覚醒後の大脳皮質には、Ca透過性のAMPA受容体が存在する一方で、睡眠後には、Ca透過性のAMPA受容体がほとんど存在していないことを示唆している。以上の結果から、大脳皮質第IV層から第II/III層の錐体細胞へのシナプスにおいては、睡眠時にはCa透過性のAMPA受容体の数が減少しシナプス伝達効率が減弱すると推測される。以上の知見は、睡眠の役割の理解につながると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、動物実験により、睡眠の役割の解明を目指しており、in vitro実験とin vivo実験を並行して進めていくと計画していた。in vitro実験では、平成24年度までに「II/III層のシナプスで、睡眠後にAMPA受容体GluR1サブユニットが減少していることを確認する」ということを目標としていたが、平成23年度中に概ねこの目標を達成することができた。一方、in vivo実験は、無麻酔無拘束動物の細胞外電位計測に用いる実験装置を開発し、平成23年度末に予備実験を終えた。平成24年度から本格的に開始する予定である。以上のことから、本研究は、概ね計画通り進んでいると言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度でも説明したように、本研究は、睡眠の役割の解明を目指した動物実験を行っている。平成24年度は、in vitro実験をさらに進めるとともに、in vivo実験でも成果を出したいと考えている。具体的には、ノンレム睡眠時に細胞外電位計を行い、ノンレム睡眠時に出現する徐波のシナプス可塑性における役割を解明することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は、主にin vitro実験を行ったので、in vitro実験に使用する物品の購入に研究費を充てた。一方、平成24年度は、in vivo実験もin vitro実験と並行して行う予定であるので、これらに使用する物品の購入にも研究費を充てる。さらに、成果発表を国内外で行う予定である。
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