研究課題/領域番号 |
23700465
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
星 秀夫 東京大学, 人文社会系研究科, その他 (30568382)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 神経節細胞 |
研究概要 |
(研究背景)先行研究では,マルチ電極を用いた神経節細胞の活動電位の記録から,高次中枢に到達する前の網膜の段階で既に「動き検出の予測」が行われていることが報告されている.この報告以降,視覚情報処理の初期過程における網膜が持つ機能の重要性が見直されてきている. (研究目的)先行研究ではいくつかの疑問点が残っている.まず「神経節細胞がどのような受容野を構成しているのか」が明確でないということである.先行研究では,個々の神経節細胞の樹状突起が作り出す領域に関して詳細に調べていない.多様性のある神経節細胞は,網膜内での樹状突起の広がり方も様々であるため,それを意識した研究をする必要がある.次に,現象論としてこのような予測があるということが報告されているが,その機能を作り出すメカニズムがわかっていない.以上のことから,本研究では,多様性を持つ神経節細胞が持つ「動き検出の予測」がどのようなメカニズムで作り出されるのかを調べることを目的とした.(結果)「動き検出の予測」を確認するために,年度を通して単一の神経節細胞から活動電位を記録した.しかし,年度前半は先行研究で報告されていたような「動き検出の予測」を見せる細胞を得ることができなかった.そこで,電気応答記録後の細胞の形態を一つ一つ共焦点顕微鏡で確認してみると,樹状突起が作り出す領域は同心円状のものだけでなく,楕円形のものなどがあり,細胞ごとに様々な受容野を持つことが明らかになった.このことから各神経節細胞の受容野に最適な光刺激をする必要があることが示唆された.これをもとに次段階の実験で細胞の受容野を考慮して光刺激を呈示すると,単一神経節細胞レベルで「動き検出の予測」を確認することが出来た.(意義)本研究の成果は,視覚系だけでなく他の感覚器の持つ未知の可能性を広げる意味で重要なものとなると信じている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2つの問題が生じた.1つ目の問題は,単一神経節細胞での「動き検出の予測」の現象論を確認するのに時間がかかってしまったことである.次に技術的な問題である.研究当初,「動き検出の予測現象」を調べるために,細胞の活動電位から細胞外記録を行い,受容野を確認した後,電極を交換して,神経節細胞の受容野に入力する各種細胞の電流の特徴を調べようとしていた.しかし,電極の交換時に細胞を見失うことが重なり,データ取得が非常に困難であった.そこで,まず細胞の活動電位から受容野を確認することに焦点を絞った.既に1つ目の現象論を確認する問題はクリアした.しかし,神経節細胞に入力する細胞についての電気生理学的性質(電流)についてはH23年度には調べることができなかった.
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今後の研究の推進方策 |
H24年度前半は,H23年度できなかったことをまず調べる.神経節細胞が「動き検出の予測」を行うときに,神経節細胞に入力する細胞がどのような挙動をしているのかを電気生理学的に調べる.次に,正確な受容野を調べるために,さらに詳細な形態学的なアプローチが必要になってきた.現在電気生理学実験時の電極には色素が充填してあり,記録後にその細胞の形態を調べることが可能である.しかし長時間記録後に美しい形態を保持していることはまれであった.そこでH23年度取得した形態学的データに追加データとして、詳細な形態学的データが必要になった.申請者は細胞内色素注入法を本研究に取り入れる予定である. H24年度後半は,入力する細胞と神経節細胞の2細胞同時記録を行う.本研究はH25年度までの3年計画である.申請当初から3年目を予備年として申請していたため,多少の遅れはあるものの詳細なデータを集めている.
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度の研究の結果,電気生理学のデータと形態学的なデータの注意深い比較解析が必要になった.そこで申請者は,より詳細な形態学的データの取得を目指す.そのため, H24年度に細胞内色素注入法を行う予定である.その時に必要なセットアップの購入費用を捻出するために,まずH23年度分の経費を10万円繰り越しした.当初購入を予定した実験器具,抗体,試薬等は研究室の共通のものを使用させていただいき,この費用にあてた.しかしそれでもまだ購入費用が足りないため,さらに申請者は,H25年度分の経費を前倒し申請している.H24年度後半は,上記したように神経節細胞とその細胞に入力している2細胞を同時記録することで,神経回路の上をどのように情報が伝達されているのかを直接的に調べる予定である.そのために,もう一台のマニピュレータを購入する予定である(H24年度の設備備品費として申請済).実験では各種受容体阻害剤などの薬物処理などを施し,神経節細胞に入力する細胞の挙動をとらえることで,「動きの検出予測」のメカニズムを解明していく予定である.
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