研究課題/領域番号 |
23700465
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
星 秀夫 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (30568382)
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キーワード | 神経節細胞 |
研究概要 |
(研究背景)初期視覚情報処理過程の役割を担う網膜は,その情報をスパイク列として高次中枢へ送る.しかし,実際に高次中枢が,送られたスパイク列の何に注目して情報処理をしているのかということは明らかになっておらず,「発火頻度」か「発火タイミング」なのかという議論に留まっている.近年,網膜レベルで既に「運動検出の予測」が行われているという報告がされたが,この論文は情報抽出方法として発火頻度でデータを検討しており,発火タイミングについては検討されていなかった.同様に,高次中枢における「予測」に関する論文の多くが,発火頻度を比較するもので,発火タイミングを検討するものはほとんどなかった.さらに,運動検出の予測という現象が生じるメカニズムについてはほとんど検討されておらず,ただ現象論を示しているにすぎなかった. (研究目的)まず「運動検出の予測」が網膜レベルで実際に起こるのか否かをスパイク発火タイミングで再検討し,そのメカニズムを電気生理学的・形態学的に明らかにすることを目的とした. (方法)網膜神経節細胞にホールセルクランプ法を適用し,運動光刺激とフラッシュ光刺激のどちらが早くスパイク発火をするのかということを調べた.用いた刺激は,運動の予測現象を証明するために,「フラッシュラグ錯視」を用いた. (結果・考察)1.神経節細胞は運動光刺激の方がフラッシュ刺激よりも早いタイミングでスパイク発火をした.運動刺激に対して早く細胞が応答することを発火タイミングで示した.2.神経節細胞の受容野を考慮すると,先行論文のデータでは,予測現象を説明することが困難ということが考えられる.3.個々の神経節細胞の受容野を作り出す樹状突起の形態(大きさや張り方)が重要である.4.生理学的データと形態学的データの比較により,神経節細胞に興奮性入力を送る双極細胞のギャップ結合がこの現象を作り出していることが考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の大まかな流れはこれまでの電気生理学的・形態学的研究で明確になってきた.しかし,一つ問題が生じている.双極細胞のギャップ結合が要因だということがこれまでの申請者の実験結果から示唆されるため,ギャップ結合を阻害する薬剤を投与し,神経節細胞からスパイク記録をしている.しかしギャップ結合阻害剤を投与後数分で大きな振動現象を示し,とても不安定な状態が続く結果になっている.このことから神経節細胞からの安定したスパイク発火タイミングを検討することが困難となっている.この問題を早急に解決する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
まずギャップ結合阻害剤を用いた研究を改良する必要がある.さらに,神経節細胞には複数サブタイプが存在することをH23年度の研究で示したが,実際にどのサブタイプの神経節細胞が「運動検出の予測」機能を持っているのかが明確になっていない.これらの問題をを早急に検討する必要がある.
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次年度の研究費の使用計画 |
申請者は研究先が変更になった(東京大学から東邦大学へ).実験で使用する灌流セットとパッチクランプ用のアンプのソフトウェアが不足しており,それらを確保するために大部分使用させていただく予定である.また,残りの費用で,学会参加・論文投稿をさせていただく予定である.
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