本年度は,申請者が所属先の変更(東京大学→東邦大学)をしたために,まず研究設備整備から始まった.電気生理以外の実験環境整備は順調に進んだ.特に細胞内色素注入法を遂行するための設備が整い,同実験が進んだ.申請者は実験動物としてキンギョを用いている.これまで様々な動物種の網膜細胞に色素注入を行ってきた経験があったが,哺乳類と比較すると,キンギョは解剖を含めた実験の技術的困難さがあった.しかし本年度,細胞内色素注入を行うための解剖方法の改良に成功した.また,哺乳類とは異なる色素注入法が必要であることが明らかになった(論文準備中につき,解剖方法・色素注入法の改良点の詳細は省く).キンギョを含めた魚類の眼球内の硝子体液は非常に粘性がある.過去の網膜研究者による先行研究において,詳細な網膜細胞の形態学的データが無かったのはそのためだと推測される.解剖方法・色素注入法の改良により,精確な形態学的情報の収集が可能となり,現在詳細な神経節細胞の形態学的データの収集を行っている. さて本研究では,研究の際に新たに浮上した問題点に対する最後の詰めの生理学実験が遂行できなかった.本年度改良した新解剖方法を,今後の生理実験に積極的に生かす予定である.申請者のこれまでの電気生理学実験(ホールセルクランプ法)においても,実験の困難さの大部分は硝子体液の粘性にあったため,本解剖方法の改良は今後非常に有効であると考えられる.しかし生理学実験に生かすためには,まだいくつかの課題が残っているため,早急に試行錯誤を重ねる必要がある. 3年間の研究期間全体を通じ,「運動検出の予測」現象の発見,そしてそのメカニズムの概略を捉えることに成功した.過去の先行研究で報告されていた網膜における高次視覚機能(運動検出の予測)は,そのデータ解釈方法に疑問点が残るものであったが,本研究により,それらの疑問点が解消されたと考えられる.
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