平成25年度は、室頂核の眼球運動関連領域から脳幹の標的細胞への投射経路を解明するため、電気生理学的及び解剖学的方法を用いて神経回路の解析を行った。小脳室頂核尾側部及び上丘を微小電流刺激し、網様体脊髄路細胞より細胞内記録を行い、シナプス入力のパターンを解析した。まず解剖学的に室頂核尾側部から脳幹への投射を調べる目的で、室頂核尾側部にデキストランビオチンを微量注入し、脳幹における軸索終末の分布をプロットし解析したところ、外転神経核より尾側の領域に終末は多く密に存在していたが、頭側の領域には終末は密には存在せず、この投射は対側優位であった。これらの解剖学的実験結果を基に、その投射部位に相当すると思われる脳幹網様体から細胞内記録を行い、網様体細胞を外転神経核よりも頭側にあるか尾側にあるかで分類してシナプス入力の性質を解析した。尾側の網様体細胞(NRG)には室頂核尾側部から非常に強い興奮性入力(EPSP)があるのに対し、頭側部の網様体細胞(NRPc)にはあまり入力はないことがわかった。このEPSPはその潜時から単シナプス性であると判定された。すでに Itoらにより室頂核から網様体細胞への入力は報告されているが、それらは延髄に位置し四肢に投射する網様体脊髄路細胞であり、刺激部位が室頂核頭側部からであった。本実験の対象は、室頂核尾側部からの投射であり、より頭側脳幹の橋―延髄境界部にある網様体脊髄細胞である。これらの細胞は、頸部運動細胞に投射し頭部の運動に関係しており、眼球運動と共同して視線制御に関わると考えられた。実際、これらの位置に存在する網様体脊髄細胞は、対側上丘から強い興奮性の単シナプス入力があるのみならず、同側上丘から2シナプス性の興奮性入力があることが明らかになった。以上を論文としてまとめJournal of Neurophysiologyに投稿し掲載された(Takahashi et al. 2014)。
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