研究概要 |
味物質受容細胞である味蕾細胞は、活動電位の繰り返し発火が困難な細胞であることを私は発見した(Ohtubo, 2009)。本研究では、味蕾細胞が味の濃淡を生体信号に変換する機構について、活動電位と起動電位に注目し、その分子機構を解明することを目的としている。 25年度以降の実施計画では、細胞内のイオン環境を生理的条件に近い状態に保つことができる穿孔パッチクランプ法あるいはcell-attached法を用いて、味刺激によって生じる活動電位の発火頻度および起動電位の変化を測定する予定であった。穿孔パッチクランプ法の実験条件を再調整し、味物質刺激による味蕾細胞の電気生理学的応答の測定を試みたが、記録電極や標本のドリフトなどで再現性の高い結果を得ることが困難であった。今後、測定用チェンバーや溶液かん流システムを改良することで問題点を改善し、味物質濃度と電気生理学的応答の関連性解明に向けて取り組む予定である。 これまでの研究で、味蕾細胞には、数種類の電位依存性Naチャネルのαサブユニット(活動電位の生成に重要なイオンチャネル)を発現していることを示した。今年度は、これら数種の遺伝子発現の定量的解析を行い、味蕾細胞の主要な電位依存性Naチャネルを同定した。また、電位依存性Naチャネルのβサブユニットについても遺伝子発現を調べ、少なくとも1種類のサブタイプの発現を明らかにした。βサブユニットは電位依存性Naチャネルの電気生理学的性質を修飾する役割を持つ。味蕾細胞が活動電位の繰り返し発火が困難な性質を持つのは、電位依存性Naチャネルの修飾による可能性がある。今後、チャネルの修飾機構などを中心に生体信号への変換機構を明らかにする。
|