研究概要 |
本研究の目的は、「TRPチャネルとプロテアーゼ受容体のそれぞれのサブタイプ間での多様な相互作用が、ラット脊髄膠様質における神経回路を介して痛覚情報伝達の修飾にどのような影響を及ぼしているのか」を、シナプスレベルでより詳細に解明することである。 1,4-および1,8-シネオールはローズマリーやユーカリ等のアロマ精油に含まれており、互いに類似した化学構造をしている。また、1,8-シネオールは発現細胞においてTRPM8チャネルを活性化することが報告されている。今回、成熟雄性SDラットから作製した脊髄横断スライスの膠様質ニューロンにブラインド・ホールセル・パッチクランプ法を適用し、グルタミン酸作動性の自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)の発生頻度や振幅に対して、1,4-および1,8-シネオールがどのような作用を及ぼすのかを検討した。1,8-シネオールは、sEPSCの振幅には影響を与えなかったものの、sEPSCの発生頻度を可逆的および濃度依存的に増加させた(EC50値 = 2.7 mM)。この1,8-シネオールによるsEPSCの発生頻度の増加は、TRPV1チャネルのアンタゴニストであるカプサゼピンによる影響を受けなかった一方、TRPA1チャネルのアンタゴニストであるHC-030031により抑制された。一方、1,4-シネオールもsEPSCの発生頻度を増加させたが、その程度は1,8-シネオールよりも大きかった(EC50 = 0.18 mM)。さらに、この1,4-シネオールによるsEPSCの発生頻度の増加も、カプサゼピンによる影響を受けなかったが、HC-030031により抑制された。以上より、1,8-および1,4-シネオールは後根神経節ニューロンの中枢端に発現しているTRPA1チャネルを活性化して膠様質ニューロンへのグルタミン酸の自発放出を促進すると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロテアーゼ受容体とTRPチャネルとの相互作用それ自体についてはまだ十分な検討ができていない。しかしながら、TRPチャネル活性化による脊髄後角第II層(膠様質)ニューロンの電気的応答については、今回、1,8-および1,4-シネオールは後根神経節ニューロンの中枢端に発現しているTRPA1チャネルを活性化して膠様質ニューロンへのグルタミン酸の自発放出を促進することなどを見出した。今後は、今回得られたTRPチャネル活性化に関する情報とプロテアーゼ受容体の活性化との相互作用について検討する。以上のことから、研究は若干の遅れは見られるものの、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究として、ラット脊髄横断スライスの膠様質ニューロンにブラインド・ホールセル・パッチクランプ法を適用し、グルタミン酸作動性sEPSCの発生頻度や振幅に対して、TRPチャネルの活性化がどのように作用するのかについて検討した。本年度は、発現細胞においてTRPM8チャネルを活性化することが知られている1,8-シネオールや、1,8-シネオールと化学構造が類似している1,4-シネオールが、一次求心性感覚ニューロンの中枢端に発現しているTRPA1チャネルを活性化して膠様質ニューロンへのグルタミン酸の自発放出を促進することなどを明らかにした。今後、他のTRPチャネルアゴニストについても同様にグルタミン酸作動性sEPSCに対する作用を検討していくと共に、これまで検討してきた種々のTRPA1チャネルやTRPV1チャネルの活性化とプロテアーゼ受容体の活性化との相互作用が興奮性シナプス伝達に対してどのような影響を及ぼすのかについて検討を加える。さらに、一連のTRPチャネルアゴニストについて、GABA作動性やグリシン作動性の抑制性シナプス後電流についてもその影響を検討し、また、抑制性シナプス伝達がTRPチャネル活性化とプロテアーゼ受容体活性化との相互作用によりどのような影響を受けるのかについても調べる。
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