研究課題/領域番号 |
23700470
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
藤田 亜美 佐賀大学, 医学部, 准教授 (70336139)
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キーワード | TRPチャネル / プロテアーゼ受容体 / 脊髄後角 / 痛覚情報伝達 / パッチクランプ法 / 興奮性シナプス伝達 / 抑制性シナプス伝達 / 神経生理学 |
研究概要 |
本研究の目的は、「TRPチャネルとプロテアーゼ受容体のそれぞれのサブタイプ間での多様な相互作用が、ラット脊髄膠様質における神経回路を介して痛覚情報伝達の修飾にどのような影響を及ぼしているのか」を、シナプスレベルでより詳細に解明することである。 生姜の刺激成分であるジンゲロンは後根神経節(DRG)ニューロンの細胞体においてTRPV1を活性化することが知られている。これまでに、ジンゲロンはDRGニューロンの中枢端においてTRPV1ではなくTRPA1を活性化してシナプス前性に自発性の興奮性シナプス伝達を促進していることを明らかにしている。今回、成熟ラット脊髄スライスの膠様質ニューロンにパッチクランプ法を適用し、このジンゲロンの作用をより詳細に検討した。(i)ジンゲロンによる自発性興奮性シナプス後電流(EPSC)発生頻度の増加について調べたところ、この作用は電位依存性Naチャネル阻害剤テトロドトキシン(TTX)や電位依存性Caチャネル阻害剤Laに非感受性であり、さらに、IP3によるCa放出を阻害する2-aminoethoxydiphenyl borateによる影響を受けなかった。一方、CaによるCa放出を阻害するdantroleneにより阻害された。(ii)電気刺激誘起性単シナプス性のEPSCに及ぼすジンゲロンの作用を調べたところ、Aδ-線維とC-線維EPSCの両方でその振幅を減少させた。(iii)GABA作動性の自発性抑制性シナプス後電流(IPSC)におけるジンゲロンの効果を調べたところ、IPSCの発生頻度と振幅をTTX感受性に増加した。以上の結果より、ジンゲロンはTRPA1を活性化することで、DRGニューロンの中枢端から膠様質ニューロンへのグルタミン酸放出をおそらくCaによるCa放出機構を介して促進することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロテアーゼ受容体とTRPチャネルとの相互作用それ自体についてはまだ十分な検討ができていない。しかしながら、TRPチャネル活性化による脊髄後角第II層(膠様質)ニューロンの電気的応答については、今回、TRPV1アゴニストとして知られている生姜由来成分ジンゲロンが、TRPV1ではなくTRPA1を活性化することで、DRGニューロンの中枢端から膠様質ニューロンへのグルタミン酸放出を促進することが明らかとなった。今後は、TRPチャネル活性化に関してより詳細に解明するとともに、プロテアーゼ受容体の活性化との相互作用について検討する。以上のことから、研究は若干の遅れは見られるものの、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにラット脊髄横断スライスの膠様質ニューロンにブラインド・ホールセル・パッチクランプ法を適用し、グルタミン酸作動性自発性EPSCの発生頻度や振幅に対して、TRPチャネルの活性化がどのように作用するのかについて検討した。本年度は特に、生姜に含まれる刺激成分であるジンゲロンが、DRGニューロンの中枢端に発現しているTRPA1チャネルを活性化して膠様質ニューロンへのグルタミン酸の自発放出を促進することなどを明らかにした。ごく最近、TRPチャネルの新規なアンタゴニストがいくつか報告されたことから、今後もより詳細なTRPチャネル活性化のシナプス伝達への作用を検討していく。併せて、これまで解明してきた種々のTRPA1チャネルやTRPV1チャネルの活性化とプロテアーゼ受容体の活性化との相互作用が興奮性シナプス伝達に対してどのような影響を及ぼすのかについての検討も行う。さらに、一連のTRPチャネルアゴニストについて、GABA作動性やグリシン作動性の抑制性シナプス後電流についてもその影響を検討し、また、抑制性シナプス伝達がTRPチャネル活性化とプロテアーゼ受容体活性化との相互作用によりどのような影響を受けるのかについても調べる
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでに痛覚情報伝達制御におけるTRPチャネルやプロテアーゼ受容体の作用について解明してきたが、ごく最近、より選択的なTRPチャネルアンタゴニストやプロテアーゼ受容体アゴニストが複数発表された。そこで計画を一部変更し、痛覚情報伝達制御に及ぼすこれらの新規アゴニストやアンタゴニストの存在下におけるTRPチャネルとプロテアーゼ受容体との相乗効果についてさらに検討することとした為、未使用額が生じた。 TRPチャネルやプロテアーゼ受容体の新規アゴニストやアンタゴニストが、脊髄後角膠様質における痛覚情報伝達制御に対してどのような作用を及ぼすのかを、これらの活性化の相乗効果を含めて次年度に解析したい。これらのアゴニストやアンタゴニストには高価なものが多い。そのため次年度においては、研究費をこれらの試薬購入に充てることとしたい。
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