小脳苔状線維を構成するマウス橋核神経細胞をモデルシステムとして、神経回路形成過程の2つの重要なステップである軸索伸展からシナプス形成への移行を制御する分子機構の解明を目的とした研究をおこなった。まず、組織学的解析により、橋核神経細胞の軸索が出生期から生後1週目までに小脳顆粒細胞層へ到達して生後1週目以降に明らかなシナプス形成が起こることを明らかにし、軸索伸展からシナプス形成への移行期が生後1週目付近であることを同定した。橋核神経細胞の軸索伸展は小脳顆粒細胞によって強く抑制されることから、次に、小脳顆粒細胞と橋核神経細胞の共培養系を用いてDNAマイクロアレイ解析をおこない、小脳顆粒細胞との共培養下において橋核神経細胞で発現が3倍以上変動する転写因子群を抽出し、さらに組織学的・分子生物学的解析により上記の移行期に生体内で実際に発現変動する転写因子を13種類同定した。そして、最終年度では、橋核神経細胞の初代培養系において13種類の転写因子群の発現変動実験による機能的スクリーニングをおこない、複数の転写因子群が軸索伸展抑制作用またはシナプス誘導作用を持つことを明らかにした。以上の研究から、橋核神経細胞の軸索伸展期からシナプス形成期へのスムーズな移行が標的細胞由来のシグナルによって発現誘導された特定の転写因子群によって制御されている可能性が示唆され、神経回路形成をつかさどる遺伝子発現プログラムの解明のための重要な知見が得られた。
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