研究概要 |
本研究は、霊長類下部側頭葉の神経細胞群が、記憶の符号化・想起時に果たす役割を、光遺伝学的手法を用いて、その神経細胞活動を制御することで、明らかにすることを目的としている。平成24年度においては、前年度に立ち上げた実験系を利用して、以下2点を中心に推進した。個別に記載する。 1、In vivo 遺伝子導入用ウイルスベクターの改良 前年度までは遺伝子導入用ウイルスベクターとして主にレンチウイルスベクターを使用してきたが、精製の容易性、組織障害性、感染の広がり等を考慮し、アデノ随伴ウイルスベクターを導入した。CaMKIIaプロモーター制御下にチャネルロドプシン(ChR2-HAまたはChIEF-HA)とハロロドプシン(eNpHR3.0-EYFP)を共発現するセロタイプ5型のアデノ随伴ウイルスベクターを作製した。AAV5-ChR2/eNpHR3.0-EYFP、AAV5-ChIEF/eNpHR3.0-EYFPの2種のベクターをラットの視床に接種し、光ファイバー内包ガラス被覆式タングステン電極(Tamura, Ohashi et al., 2012)で光照射・電気生理学記録を実施したところ、2種のベクター共に青色光照射で神経細胞活動の活性化・橙色光照射で神経細胞活動の抑制が可能であることがわかった。さらに組織学的にもチャネルロドプシン及びハロロドプシンの共発現を確認できた。 2、光遺伝学的機能的磁気共鳴画像法の検討 上記新ウイルスベクター及びレンチウイルスベクターをラットの視床に接種し、光照射下にてMRI撮像を実施し、BOLD信号の取得を試みた。特定の条件下において、BOLD信号の取得に成功したが、同時に各条件の最適化が必要であることが判明した。 上記の他、電気生理学的記録、X線撮影、MRI画像などを組み合わせて、マカクザルの下部側頭葉等、狙った脳部位にウイルスを接種する方法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現段階では、問題なく進展していると言える。 今年度は、pilot studyとして実施してきた研究を、2編の論文として発表できた(Tsubota, Ohashi et al., Neuroscience, 2012; Tamura, Ohashi et al., J. Neurosci. Methods, 2012)。また、新ウイルスベクター(AAV5-ChR2/eNpHR3.0-EYFP、AAV5-ChIEF/eNpHR3.0-EYFP)の開発、光遺伝学的機能的磁気共鳴画像法の条件検討、マカクザルの脳への精確なウイルスベクター接種法の確立等、着実に進捗している。
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