研究課題/領域番号 |
23700496
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
向井 秀夫 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (20534358)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | スパイン / 神経細胞 / 樹状突起 / 大脳皮質 / 海馬 / 辺縁系 / 情動 / オキシトシン |
研究概要 |
スパイン(シナプス後部)は脳の神経細胞ネットワークにおいて中心的な役割を担っている。この棘構造は約1世紀前に発見されて以来、記憶を担う可塑性の主役と目され、統合失調症などの精神疾患でも変化していることが明らかになってきており、世界中で研究が重ねられている。しかし、その莫大な数ゆえに、計数・解析作業は熟練した研究者の手作業にほぼ頼っており、多数の神経細胞に及ぶ研究は阻まれてきた。この難局面を打開すべく、研究代表者らによって開発されたスパイン自動解析プログラムSpisoはスパインの計測解析を手作業からコンピュータの自動作業に変えることに実用的なレベルで世界で初めて成功した。以上の成果を多くの脳科学の研究者に役立つ新たな計測解析手段として提供することを目的として、プログラムのさらなる整備を行い、成果を国際的な欧文誌であるCerebral Cortex誌に研究代表者を筆頭著者とする論文として投稿し、査読を経て掲載に至らせた(Mukai, H. et al.,"Automated analysis of spines from confocal laser microscopy images: application to the discrimination of androgen and estrogen effects on spinogenesis"Cerebral Cortex, 21(12), 2704-2711, 2011)。この論文は発行号においてEditor's Choice(編集者推薦論文)に選ばれ、また掲載後海外からの問い合わせも相次ぐなど高い関心を集めている。また方法の深化を目指すべく、神経細胞の可視化手段にとって重要である量子ドット・有機金属色素等の検討を行った。さらにこれまで主に解析の対象であった海馬に加え、前頭前野の神経細胞の可視化にも取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、多くの脳科学の研究者に役立つ新たな計測解析手段としてスパイン解析プログラムを提示することを一つの目的としている。そのため、様々な整備を行って、成果を国際的欧文誌であるCerebral Cortex誌に研究代表者を筆頭著者とする論文として投稿し、査読を経て掲載に至らせたこと(Mukai, H. et al., Cerebral Cortex, 21(12), 2704-2711, 2011)は大きな具体的成果である。この結果は世界の最先端を行くものであり、実際この論文は発行号において一号につき一論文のみ選ばれるEditor's Choiceとなった。また掲載後海外からの問い合わせも相次ぐなど高い関心を集め、十分な波及的効果を挙げつつあると考えられる。成果の一部を発表すると同時に、一方の目的である方法のさらなる深化を目指して、神経細胞の可視化手段にとって重要である量子ドット・有機金属色素等の検討を行いつつある。これまでに有望な蛍光分子をいくつか見出し、さらに最適なものを選び出す努力を続行中である。最終的には非常に有力な物質が見出されると期待できる。またこれまで主に解析の対象であった海馬に加え、申請において計画した前頭前野の神経細胞の可視化にも取り組んでいる。具体的には帯状回皮質のII・III層細胞の樹状突起の機能を保存した形で切り出す方法の開発を電気生理などの多側面からの手段による検討を加え行っている。現在までに薬理学的に皮質のネットワーク振動を起こすことができるような状態の脳標本の調製に成功した。以上のように、本研究では成果を確実に発表に結び付けつつ、最終年度に向けて研究の遂行に努めており、現時点での目的の達成度は良好と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度である24年度では、方法のさらなる深化を目指して、神経細胞の可視化手段にとって重要である量子ドット・有機金属色素等を検討し最適なものを選び出す努力を続行する。これまでに有望な蛍光分子をいくつか見出したが、さらに決定的なものを見出すべく従来生物学研究に使われてきた色素の範囲を超えることを考えている。本研究のような計測を主とする実験研究では、測定機器と量子ドット・有機金属色素など色素・薬品類は一体となって改善され初めて測定性能の上がった結果に結びつくものであり、測定機器自体も一新し、研究費も以上に相当額を支出して展開を図る。前年度に取り組んできた前頭前野の神経細胞の可視化の検討をさらに進める。具体的には情動や社会的行動制御にかかわる前頭前野の一部である帯状回皮質を選び、そのII・III層細胞の樹状突起の機能を保存した形で切り出す方法の開発を、電気生理的測定などの多面的な手段による検討を加え行った。現在までに薬理学的に皮質のネットワーク振動を起こすことができるような状態の脳標本の調製に成功しているので、この標本を中心に、前頭前野の神経細胞の形態やオキシトシンの効果の全貌解明を目指す。以上の実験研究の努力に加え、現時点までの成果の普及を促進する。上述の論文という結果は日本発にして世界の最先端を行くものであり、先述のように十分な波及的効果を挙げつつあるが、さらに論文にとどまらず、国際学会(北米神経科学学会)に研究代表者本人が出席して海外研究者と積極的に議論し普及を図り、研究者の顔が見える日本の科学の成果という評価を確立することに努める。以上のように成果を確実に普及するとともに、最終年度の研究を推進しさらなる成果を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述のように24年度では、23年度で準備を重ねた計画を実行するために研究費を支出する。24年度に使用する予定の研究費がある理由としては、特殊事情として、研究代表者は研究初年度(23年度)の半ば(8月)で研究機関を異動したことがあげられる。そのため前所属機関では事務上の要請から支出が行えず、利用可能な周辺機器類もある程度変動した。さらに東日本大震災の影響による予算措置で研究費の分割交付という事情もあり、測定機器等に支出可能な額の見極めも不明な時期を経験せざるを得なかった。以上から物品の調達にやや時間がかかっているが、23年度で周辺の事情の調整もほぼ終えたので、今後加速的に研究が進められると期待できる。24年度は最終年度であり、本年度に請求する研究費と合わせて使用することにより、効果的な計画遂行ができると確信している。具体的には前年度分の研究費だけでは調達できなかった、測定機器本体以外の様々な消耗品(非常に高価な色素・薬品類)、前年度に論文発表した成果を24年度秋に開催される国際学会(北米神経科学学会)に出席して海外研究者により周知させる(既に学会発表予稿を投稿中)など、23年度での努力を相乗的に実らせる支出を予定している。本研究のような計測を主とする実験研究では、測定機器と量子ドット・有機金属色素など色素・薬品類は一体となって使用され初めて結果に結びつくものであり、23年度での試行的な使用から移行して24年度では量を多く用いるため研究費も相当額を支出する必要がある。また国際学会は旅費が国内学会より多い額となるため、24年度に交付される研究費があって初めて可能となる。以上のように、研究費が基金化された趣旨を生かし、最終年度である24年度を通じて本研究全体としての効果的かつ適正な研究費の支出となるよう努める。
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