3.ペナンブラ領域の光散乱イメージング 虚血性脳梗塞における梗塞巣,梗塞周辺領域(ペナンブラ領域),正常領域の各領域を光散乱イメージングにより描出できるか検証するため,ラット脳を対象に経頭蓋骨的近赤外拡散反射光イメージングを行った。先行研究に基づき,脳梗塞モデルでは1) 梗塞巣(壊死層)は散乱増加領域として描出され,2) ペナンブラ領域は血流低下により血球による光散乱が低下する領域として描出されるか,梗塞周辺脱分極により特徴的な散乱変化が観察され,3) 正常領域は散乱変化がない領域として描出されるとの仮説を立てた。この仮説を検証するため,麻酔下にラット頭部を固定し,左半球中大脳動脈を閉塞し,波長800 nmのランプ光で頭部を照明し,左右両半球を視野にCCDを用いて拡散反射光を撮像した。血管を閉塞すると数分後,左中大脳動脈支配領域である左側頭部の局所に脱分極の発生を表す散乱低下領域が出現し,時間とともに左半球皮質全体に拡大した。この領域は,脱分極による細胞の膨化に伴う散乱低下を捉えたものと考えられた。この散乱低下領域が通過すると,散乱は再び増加した。光散乱により可視化された脱分極の波は,血管閉塞から1時間以内に4回発生,伝搬速度は平均2.0 mm/minであり,一般的な梗塞周辺脱分極の文献値と一致した。脱分極発生後の大脳皮質には,1) 脱分極が発生した地点を中心に散乱増加領域が楕円形に広がり,2) その周囲を散乱低下領域が囲み,3) さらにその外側に散乱変化のない領域が観測された。これらはそれぞれ上記仮説の1) 梗塞巣,2) ペナンブラ領域,3) 正常領域を表すものと推察された。以上より光散乱イメージングは,虚血性脳梗塞の病態のリアルタイムモニタリングに有用であり,その病態解明と治療法開発への活用が期待される。
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