本研究では、サルの下側頭葉に微小電極アレイを多数埋め込み(電極総数224本)、ニューロン活動を多チャンネル同時記録することにより、物体画像が意識的に知覚される時と無意識下に処理される時で、神経群の活動パターンがどのように視覚情報を符号化するのか解明することを目指した。さまざまな物体画像(100-250種類)を提示したところ、100チャンネル以上の電極から下側頭葉ニューロンの活動電位を記録することができ、神経活動には、どんな画像を見ているのか高い精度で判別できるだけの視覚情報が符号化されていることを明らかにした。さらに、意識的に顔認知している際の神経群の活動パターンを詳細に解析することができた。その結果、顔の頭部方位と個体識別に関する情報表現が同じ下側頭葉でも領域によって違うことが明らかになった。また、位相シフトという画像処理を使って、左眼画像を左方向、右眼画像を右方向に動かす特殊な両眼視野闘争刺激を生成し、両眼分離提示する実験系を構築した。同刺激を観察すると、左右の画像のうち、どちらか一方だけが意識的に知覚され、他方は抑制される。同刺激をサルが観察している間に生じる眼球運動を測定し、どちらの画像が意識的に見えているかを視運動性眼振とよばれる反射性の眼球運動パターンから判別できるかどうか検討した。最後に位相シフト操作による運動画像に対する、下側頭葉ニューロンの活動を記録したところ、ニューロンは、運動方向によらず、物体像に特異的に応答することが明らかになった。
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