研究課題/領域番号 |
23700505
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
川道 拓東 生理学研究所, 大脳皮質機能研究系, 特任助教 (30596391)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 共感 / 向社会行動 / 動因 / 温情効果 |
研究概要 |
本研究では、ヒトならではの高度な社会性の解明に向けて、ヒトが円滑な社会生活を送るために重要な、他者に恩恵を与える向社会行動の神経基盤を明らかにすることを目的とする。本研究の推進においては、向社会行動を行う際には、相手の立場に立ち相手と同じ感情状態に自らを置く共感が重要なことから、向社会行動と共感の連関を対象とする。今年度は、共感誘起に重要な二者間の自然なやりとりが可能な協調タスクを開発し、実験により検証した。協調タスクは、実験協力者間で仮想的なボール回しをするcyberball toss課題を応用して、2人の実験協力者が同時に参加できるように構築した。このタスク遂行中の2人の実験協力者11組(計22名)の脳活動を、dual-fMRIを用いて同時に計測した。なお、脳活動計測と並行して行動データも併せて計測した。実験におけるメインフォーカスは、他のプレイヤを仲間はずれにすることで心理的苦痛を他者に与えた際の反応とした。結果として、仲間はずれにすることにより、該当するプレイヤへの援助であるボールトスが多く見られるとともに、報酬系の一部である線条体の賦活が見られた。この線条体の活動は共感指標との間で有意な相関があった。これは、援助により援助対象者がポジティブな感情になることを予期した共感を示していると考えられる。従来まで、向社会行動をとることで温かい気持ちになることが、向社会行動の動因であるという温情効果が知られてきた。本研究により、この温情効果が共感という機能を介していることが初めて示された。こうした向社会行動の動因についての神経基盤の知見は、社会への影響の大きさという観点からも非常に重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画した初年度の実験に関しては解析まで完了し、当初たてた仮説通りの結果を得た。よって、当初の計画通り進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
計画通り進んでいるため、今後は、当初の計画通り推進する。2012年度は、共感のネガティブな側面である、共感に基づく苦悩の神経基盤の解明を目標として研究を推進する。共感の発生に対する感情調節が効果的に遂行できないことが、共感のネガティブな側面である。これにより、自己の苦悩が発生する(例:苦しんでいる他者を見て共感することで、自らも苦しみを感じる)ことで向社会行動が抑制される。そこで、共感に起因する苦悩の発生・調整要因を明確化する実験デザインを考案し、実験を推進する。実験においては、共感の発生・調整要因として、個人の特性、および、他者との関係性を取り上げ、どのように働くかを検証する。これにより、23年度に実施した向社会行動と共感の連関の知見に、抑制要因についても明確化することができ、研究の目標を達成することが可能となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記実験を実施するにあたり、必要な実験機材(実験協力者説明用の機器など)の購入を推進する。併せて、今年度の実験推進に必要な実験協力者への謝金としても使用する。また、2年間に遂行した実験に関して、学会発表・論文発表を進めるための費用(英文校閲・論文投稿・プレゼンテーション作成)としても使用する。
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