研究課題
研究計画の初年度は計画の基盤である技術の確立に注力し、特にラットにおける4倍体補完法を確立させ、一方で予備データとしてラットiPS細胞をマウス4倍体に注入した際、胚発生の中期(E9.5)への発生が確認できた。そこで最終年度である今年度は(1)個体サイズや組織の正常性の評価および(2)胚発生の停止が認められた場合、その原因を明らかにするという目標を達成すべく研究を進めてきた。(1)について得られた胚の正常性を判断するために形態的特徴や免疫染色法を用いた各組織の機能マーカーの発現を見たところ、前年度に見られたE9.5のラットiPS細胞由来の胚では正常胚とほぼ変わらない結果が得られた。一方で、発生を継時的に追ったところ、E10.5以降では発生時の退行が認められ、その後、出生可能な胚は得られなかった。また逆の実験、すなわちマウスiPS細胞をラットの4倍体胚に注入するという実験においても、同様に発生中期(E13.5)程度での発生の停止が認められた。そこで(2)として掲げた原因究明のため、これらの原因のひとつとして多能性幹細胞の質について検証した。ラットでは生殖系列にも効率に寄与が可能で、新規に同定したラットのRosa26遺伝子座の制御化で安定してtdTomatoを発現するES細胞を、またマウスについても、129sv系統とC57BL6系統のF1由来の同種間で4倍体補完由来の個体を生み出せる質の高いES細胞をそれぞれ用いた。しかしながら結果は同様で、いずれも胚発生の中期での発生停止が見られた。特にラットにおいては同種間でも4倍体補完により個体作製に至らなかったため、今まで樹立してきたラットES細胞の遺伝子プロファイルをマイクロアレイ法により解析したが、今のところ株間で機能と関連する遺伝子の同定には至っておらず、今後さらなる解析が必要である。以上より、マウス-ラットを用いた異種間4倍体補完法により多能性幹細胞を胚発生中期まで発生させることに成功したが、一方で生存可能な個体作出には至らず、今後さらなる研究が必要であると思われる。しかしながら、異種間4倍体補完法のシステム自体は初期胚発生における異種間の障壁を研究するツールとしてのみではなく、多能性幹細胞由来の個体を異種の環境下において作製するための一歩となると考えられる。
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