研究課題
2012年度は下記の4系統の糖鎖形成に関わる遺伝子改変マウスについて行動解析と生化学的解析を実施した.【β4GalT-2欠損マウス/GlcAT-P欠損マウスの生化学的解析】複合型N型糖鎖形成に関わる,β4GalT-2とGlcAT-Pの各々の欠損マウスについて,特にβ4GalT-2欠損マウスが新奇個体に対する探索行動の増加と注意機能の障害を持つことを前年度までに見出した.このような行動異常が脳内でのドーパミン系の障害によるものかを検討する目的で,ドーパミンレセプターサブタイプ,トランスポーター,合成酵素のmRNAの発現パターンを脳領域毎に検討した.その結果,β4GalT-2欠損マウスの大脳皮質,線条体,海馬において,D1およびD2レセプターのmRNAが高発現していることを見出した.【β4GalT-6欠損マウスの基本的行動解析】前年度までに,糖脂質の生合成に関わるβ4GalT-5を脳特異的に欠損させたマウスは,1)ホームケージ活動量の顕著な低下,2)オープンフィールドテストにおける高活動性,3)PPIにおける注意機能の障害を見出した.今年度は,よく似た酵素活性を持つとされるβ4GalT-6の欠損マウスについて行動解析を実施した.その結果,活動性の変動は類似していたものの,注意機能の障害は観察されず,両転移酵素による糖鎖修飾や,その修飾による機能制御が脳領域や脳機能毎に乖離している可能性が示唆された.【脳特異的β4GalT-5,およびβ4GalT-6欠損マウスの生化学的解析】各々の欠損マウスの行動特性を鑑みるに,ドーパミン系制御下にある行動に焦点が当てられる事から,ドーパミン系に関わる遺伝子についてmRNAの発現パターンを脳領域毎に検討した.現在,より詳細な解析を進めている.
2: おおむね順調に進展している
計画開始の23年度から2年間で,対象とする遺伝子改変マウスの行動解析は予定通り実施することができた.その結果,各々の遺伝子改変マウスが注意機能,社会性,活動性などに障害があることが分かり,ヒト精神疾患のエンドフェノタイプを有し,モデルマウスとして有用であることをることを確証しつつある.24年度は特にこれらの表現型に関わる脳内での物質的変動を検討する目的で研究を実施し,β4GalT-2欠損マウスについてはドーパミンレセプターの機能障害を持つ可能性を見出すことができた.すでに23年度までに脳特異的β4GalT-5欠損マウスはミエリン鞘の形成障害がある可能性も確認しており,各々の遺伝子改変マウスの行動異常を説明し得る物質的基盤とその変動を確証しつつあり,研究計画はおおむね順調に進展している.
平成25年度は,これまでの2年間に得られた各遺伝子改変マウスの行動異常に関わる物質的基盤について,より詳細に検討を行う予定である.β4GalT-2欠損マウスについては,ドーパミンレセプターの機能障害が糖鎖修飾の異常に起因したものかどうかをbinding assayや免疫沈降法を用いたwestern blotting により確認する.さらに,行動薬理学的実験により,行動障害の啓善を確認する予定である.また,脳特異的β4GalT-5欠損マウスから示唆されたミエリン鞘形成障害が実際に生じていることを組織学的に確認し,行動異常を説明し得る物質的基盤を見出す.
平成24年度から25年度に繰越金が発生した事由は以下の通りである.1)糖修飾を受けるタンパク質,脂質の同定について,候補となる物質が複数存在することから,その予備検討が必要となり,24年度中途から実施を想定していた質量分析や免疫沈降法等の実験を25年度に実施変更としたため.2)神経伝達物質の同定について,当初の想定よりも多くの候補物質が考えられ,効率よく研究を実施するためには,高価な試薬をまとめて購入した方が研究費を有効に使用できることが明らかになったため.
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Nature Communications
巻: 4 ページ: ncomms2336
10.1038/ncomms2336