糖鎖はガラクトースやマンノース等の単糖が鎖状に結合した分子である.糖鎖形成過程においては,各々の糖転移酵素が各ステップにおいて単糖を順次付加していくことから,糖鎖機能の研究では糖鎖そのもののみならず糖転移酵素が重要な研究対象である.遺伝子改変マウスを用いた近年の検討からは,糖鎖修飾を受けたタンパク質や脂質,すなわち糖タンパク質や糖脂質がミエリン鞘やシナプスの形成過程,あるいは神経可塑性,学習・記憶,情動を始めとした高次脳機能において必須の機能を担うことが明らかにされつつある.本研究では,糖転移酵素に変異を持つ遺伝子改変マウスを用いた行動解析を端緒として,高次精神機能の障害やそれを一因とする精神疾患と脳内の糖鎖機能との関連について検討した.糖鎖修飾に重要な遺伝子改変マウスの中でもガラクトース転移酵素の3遺伝子に関するノックアウトマウス,および,コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの硫酸基修飾に重要な硫酸基転移酵素のトランスジェニックマウスを用いて実験を行った.その結果,1)糖脂質の合成に関わるガラクトース転移酵素を欠損させたマウスでは軸索変性によると推察される顕著な運動障害と発育不全,2)プロテオグリカンに関わる硫酸基転移酵素のトランスジェニックマウスではドーパミン系機能の障害による注意機能の障害を見出した.これらの障害はヒトの精神疾患,神経疾患と類似するものであり,病因理解,治療法の確立に有用なモデルマウスであることが明らかとなった.
|