研究課題/領域番号 |
23700511
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
檜垣 彰吾 鳥取大学, 農学部, 助教 (70595256)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 実験動物 / ゼブラフィッシュ / ネッタイツメガエル / 始原生殖細部 / 低温保存 / ガラス化 |
研究概要 |
本研究は、実験用魚類始原生殖細胞の低温保存に最適な凍害防止溶液の開発、新たな凍害防止溶液で低温保存した始原生殖細胞の配偶子への発生・分化能の確認、および改良した魚類始原生殖細胞低温保存法の実験用両生類への応用を目的とし、本年度は前二項目を対象とした。 まず、最適な凍害防止溶液の開発を目的とし、ゼブラフィッシュ胚をエチレングリコール(EG)、ジメチルスルフォキシド(DMSO)およびプロピレングリコールのいずれか1種類あるいは2種類を含む凍害防止溶液に浸漬後、急速冷却(ガラス化)し、加温後における始原生殖細胞の生存性を調べた。その結果、1種類の凍害防止剤を含む溶液を用いた場合、最大の生存率はEGを用いた際の約65%であったが、始原生殖細胞に特有な仮足運動を示す細胞はほとんど得られなかった。しかし、2種類の凍害防止剤を組み合わせることで、始原生殖細胞の生存率は著しく改善され、EGとDMSOを含む凍害防止溶液を用いることで、最大約80%の生存率が得られ、そのうち約55%の細胞で仮足運動が認められた。 次に、低温保存した始原生殖細胞の配偶子への発生・分化能を確認するため、EGとDMSOを含む凍害防止溶液を用いてガラス化したゼブラフィッシュ胚(ドナー)から始原生殖細胞を回収し、不妊化した別系統の胚(レシピエント)236個へ移植した。性成熟まで生残したレシピエント7匹の交配試験の結果、全てのレシピエントからドナー由来の産子が得られた。 以上の結果から、実験用魚類始原生殖細胞の低温保存に最適なEGとDMSOを含む凍害防止溶液が開発されるとともに、新たに開発された凍害防止溶液で低温保存した始原生殖細胞が機能的な配偶子へと発生・分化することが確認された。これらのことから、現在生体を継代飼育することで維持されている膨大な数のゼブラフィッシュの系統が安全で安価に保存できるようになると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、実験用魚類始原生殖細胞の低温保存に最適な凍害防止溶液の開発、新たな凍害防止溶液で低温保存した始原生殖細胞の配偶子への発生・分化能の確認、および改良した魚類始原生殖細胞低温保存法の実験用両生類への応用を目的とし、本年度は前二項目を対象として研究を行った。 その結果、実験用魚類として重要なゼブラフィッシュの始原生殖細胞の低温保存に最適なエチレングリコールとジメチルスルフォキシドを含む凍害防止溶液を開発するとともに、新たに開発した凍害防止溶液で低温保存したゼブラフィッシュ始原生殖細胞が機能的な配偶子へと発生・分化することを確認した。 以上のことから、本年度に対象とした目的は達成することができたと考えられ、研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
実験用両生類であるネッタイツメガエルもゼブラフィッシュと同様に、卵子や胚の低温保存法は開発されておらず、現状では生体を継代飼育することにより非常に多くの系統が維持されていることから、遺伝資源の保存法の開発が望まれている。 魚類と同様に両生類においても受精・発生が体外で進行することから、申請者らがゼブラフィッシュ用に開発した始原生殖細胞の低温保存技術はネッタイツメガエルにも応用可能であると考えている。また、ネッタイツメガエルにおいても、始原生殖細胞の可視化が可能であることから、低温保存後における始原生殖細胞の生存性の評価もゼブラフィッシュと同様に行うことが可能であると考えられる。以上のことから、今後は、本年度の研究により改良した魚類始原生殖細胞低温保存法を両生類へ応用することを目的とする。 具体的な研究の推進方策としては、まずガラス化に適したネッタイツメガエル胚の発生段階の検討を行う。これは、両生類の胚が発生段階により凍害防止剤に対する感受性および浸透性が異なることが知られていることから、様々な発生段階のネッタイツメガエル胚のガラス化を行い、加温後における胚細胞の生存率を調べることで、ガラス化に適した胚の発生段階の決定を行う。次に、胚のガラス化による始原生殖細胞の低温保存の可能性を検討する。これは、始原生殖細胞を可視化したガラス化に適した発生段階のネッタイツメガエル胚を様々な時間凍害防止溶液に浸漬後ガラス化し、加温後における始原生殖細胞の生存率を調べることで魚類始原生殖細胞低温保存用の凍害防止溶液がネッタイツメガエルでも利用可能かを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度、予定していたマイクロインジェクタおよびマイクロマニピュレータは購入せず、既存の物を使用したため次年度使用の研究費が生じた。しかし、本年度の結果から、始原生殖細胞の移植成功率を上げる必要が有ると考えられたため、次年度に購入する予定である。 次年度の研究費を用いて、ネッタイツメガエル胚の操作および蛍光による始原生殖細胞の可視化を円滑に行うため、実体顕微鏡用蛍光装置を購入予定である。また、本年度と同様に、消耗品として実験用動物(ネッタイツメガエル)とそれらの飼育に要する物品、始原生殖細胞可視化用のmRNAと借腹種不妊化用のモルフォリノオリゴを含む分子生物学用試薬および器具、胚や胚細胞の培養に用いる試薬およびガラス・プラスチック器具の購入を予定している。学会出席のための旅費、また研究成果を発表するための論文投稿のための英文校正費を含めた投稿料にも研究費を使用する予定である。
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