本研究は、実験用魚類始原生殖細胞(PGC)の低温保存に最適な凍害防止溶液の開発、新たな凍害防止溶液で低温保存したPGCの配偶子への発生・分化能の確認を主たる目的とした。 最終年度には、魚類PGCの低温保存に最適な凍害防止溶液の開発を目的とし、より詳細な凍害防止剤の組み合わせについて検討を行った。前年度までに卵黄を吸引除去することで低温保存性が改善することが明らかになっていることから、卵黄を除去したゼブラフィッシュ胚をエチレングリコール(EG)、ジメチルスルフォキシド(DMSO)およびプロピレングリコール(PG)のうち2種を様々な濃度で含む凍害防止溶液を用いてガラス化し、加温後におけるPGCの生存性を調べた。その結果、3 M EG+2 M DMSOを含む凍害防止溶液を用いた場合にPGC生存率は最大で80%となり、無処理の胚に含まれるPGC数と差が無く、胚のガラス化によるゼブラフィッシュPGCの低温保存に最適であることが明らかとなった。 この凍害防止溶液を用いて低温保存したPGCの配偶子への発生・分化能を確認するため、不妊化した別系統のゼブラフィッシュ胚(レシピエント)へ移植した。性成熟まで生残したレシピエントの交配試験の結果、全てのレシピエントからドナー由来の産子が得られた。 以上の結果から、ゼブラフィッシュPGCの低温保存に最適な凍害防止溶液が開発されるとともに、新たに開発された凍害防止溶液で低温保存したPGCが機能的な配偶子へと発生・分化することが確認された。これにより、現在生体を継代飼育することで維持されている膨大な数のゼブラフィッシュの系統が安全で安価に保存できるようになると期待される。 また、本研究中には、琵琶湖固有種であるホンモロコの精原細胞の低温保存についても検討し、その過程で精原細胞の培養に必須だと考えられる、セルトリ細胞株の樹立にも成功した。
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