熱ショック(転写)因子HSF2は、哺乳類では4種類存在する熱ショック因子群の1つであり、神経発生や生殖細胞の分化に関与することが知られているほか、「脳神経に高発現している熱ショック因子である」という特徴がある。これまで、熱などのストレスに対してHSF2が細胞防御能を有するかはわかっていなかったが、昨年までの我々の研究により、神経変性疾患の1つであるポリグルタミン病に関して、その原因蛋白質が引き起こす細胞内凝集を抑制すること、また、ヒトの生理的な体温変動の範囲においては、最もよく研究されているHSF1よりもむしろHSF2が細胞のホメオスタシスの維持に重要である可能性が示された。本年はこれらの分子機構について新たな知見を得たので報告する。 昨年度までの研究により、HSF2がヒストンH3K4トリメチル化複合体の構成因子であるWDR5と結合していることを見出したが、続く in vitro の解析により、HSF2はWDR5の最もC末端にあるWD40リピートに、WDR5はHSF2の中央部にある domain X に結合することが明らかとなった。この結果は in vivo でも再現性があり、現在、HSF2とWDR5の結合に最も重要な領域が10アミノ酸まで絞り込まれた。また、昨年我々がHSF2の標的遺伝子であることを示した alphaB-クリスタリン遺伝子のプロモーターにおいて解析を行ったところ、HSF2とWDR5が同じ領域に結合していること、およびWDR5の結合はHSF2依存的であることがわかった。また、熱ショック因子の中ではHSF1だけがクロマチンを開けて転写活性化を引き起こすと考えられてきたが、特定の遺伝子においては、HSF2がHSF1がなくとも転写活性化を引き起こすことを示唆するデータを得た。これらの結果により、HSF2はHSF1とは異なる転写活性化機構を有することが考えられた。
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