研究課題/領域番号 |
23700515
|
研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
米重 あづさ 東海大学, 糖鎖科学研究所, 特定研究員 (70586750)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | プロサポシン / サポシン / 胚発生 |
研究概要 |
本研究はプロサポシンの生理機能を解明すべく2つの研究課題を実施している。一つ目はプロサポシン欠損マウスの出生率が非常に低いことから、欠損マウスが胎生致死であることを予想し、その原因究明を行っている。各胎齢におけるプロサポシン欠損マウスの病態解析の結果、プロサポシン欠損マウス胎仔は胎齢7.5日の時点で既に成長不良を呈していた。電子顕微鏡による詳細な観察の結果、胎齢7.5日の母体組織である子宮膜の一部・脱落膜において異常な形態の細胞を多く認めた。胎齢7.5日以降、プロサポシン欠損マウスの生存率は減少し、胎齢10.5日のプロサポシン欠損マウスでは、胎仔の発育遅延に加えて胎盤の海面状栄養膜層の萎縮が観察された。以上の結果から、マウス胚発生において妊娠初期では脱落膜、妊娠中期では胎盤において特にプロサポシンが必須である可能性が示唆された。そこで、野性型マウス胚において、各胎齢におけるプロサポシンの発現量を解析したところ、脱落膜において胎齢6.5日ではプロサポシンはほとんど発現していないが、胎齢7.5日から9.5日の間でプロサポシンの発現が増加することが判った。また、胎齢10.5日の胎盤の海面状栄養膜層にプロサポシンは発現しており、それ以降減少することが判った。これまでの成果を第31回内藤コンファレンスで発表し、助成金を獲得した。現在、プロサポシンだけでなく、プロサポシンから生成されるサポシンの重要性も見出しつつあり、両タンパク質が脂質結合や膜融合に関与する可能性があることから、胎生期におけるこれらの生理現象に焦点を絞り研究を展開している。 一方、もう一つの研究課題であるプロサポシンタンパク質の構造解析では、各種臓器に含まれる分泌型プロサポシンと内在性プロサポシンのウェスタンブロット上での移動度の違いは確認したが、各プロサポシンタンパク質の精製実験が困難で、代替実験を模索している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロサポシン欠損マウスの胎生致死の解明については、研究計画通りに遂行できた。当該年度に、プロサポシン欠損マウスを妊娠初期から出生まで時系列に沿って採取し病理学的解析を行った結果、プロサポシン欠損マウスの胎生致死の時期と病変部位を特定できた。また、ウェスタンブロットや免疫組織染色法により野性型マウス胚でのプロサポシンの時空間的発現変化を明らかにし、同時に成熟タンパク質であるサポシンの発現変化も明らかにした。これらの研究の過程で、胎仔に存在するプロサポシン・サポシンの一部は母体由来であることが判明し、プロサポシン・サポシンが母子間で輸送されるという興味深い知見を得た。現在、以上の結果を論文投稿準備中であり、妊娠初期から中期にかけてのプロサポシン・サポシンの生理機能解明に向けて、今後は脱落膜や卵黄嚢、胎盤の機能発現との関わりを重点的に解析していく予定である。 一方でプロサポシンタンパク質の構造解析は、野性型マウスからの精製実験が困難であったことから、研究計画の遅れが生じている。抗体カラムを用いて精製実験を行っているが、今のところ構造解析に供する十分量のプロサポシンを得られていない。また、免疫沈降によって部分精製したプロサポシンに対してレクチンブロット等の糖鎖構造解析の予備実験も行ったが、有用な結果は得られていない。そこで、精製実験におけるタンパク質量の問題を解決するために、現在、東海大学医学部吉村眞一講師からヒトプロサポシン過剰発現マウスと新たな抗プロサポシン・サポシン抗体の供与を受け代替実験が可能か検証中である。既にヒトプロサポシン過剰発現マウス由来の皮膚繊維芽細胞の培養系は確立しており、今後培養液中の分泌型プロサポシンと細胞内プロサポシンの構造を解析していく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究の結果、マウス胚発生において妊娠初期では脱落膜、妊娠中期では胎盤においてプロサポシンが、妊娠初期の卵黄嚢ではサポシンが、必須である可能性が示された。また、プロサポシン・サポシンは母体から胎仔へ供給されることも示唆された。今後は、これらの可能性を検証するために、四倍体胚補完法によりプロサポシン欠損マウスにおいて胎盤と胎仔どちらが致死性に寄与しているのかを明らかにし、プロサポシン欠損マウスとヒトプロサポシン過剰発現マウスとの交配実験により、プロサポシン欠損胎仔へのヒトプロサポシン補完効果を観察していく予定である。 一方、既報論文においてサポシンは脂質結合能を有することや膜融合を促進することが試験管内の実験によって示されている。よって、脱落膜や卵黄嚢、胎盤に発現しているプロサポシン・サポシンも脂質の運搬や生体膜の融合反応に関わると考えられる。今後は、母子間の脂質成分の輸送実験や、ライソゾームやエンドソームなど膜融合が必須である細胞内小器官の動態観察を重点的に行う。 前項で記述したとおり、プロサポシンタンパク質の構造解析においては、野性型マウスからの精製実験の条件検討に加えて、ヒトプロサポシン過剰発現マウスからの精製実験も検討していく。十分量の分泌型プロサポシンおよび細胞内プロサポシンが得られたら、当初の研究計画通り、N型糖鎖の構造解析を中心に分泌型と細胞内在型プロサポシンタンパク質の構造を明らかにしていく。具体的にはレクチンブロットによる構造予測と質量分析計による構造決定を行う。また、N型糖鎖結合部位の変異タンパク質を用いた細胞内動態変化や生理活性への影響を検証し、プロサポシンタンパク質の構造の違いがもたらす生理機能の解明へと発展させていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当該年度では、プロサポシン欠損マウスを用いた研究計画で使用する研究物品の購入に多くの予算を充てたので、次年度は主にタンパク質精製実験や糖鎖構造解析に用いる研究物品を購入し、プロサポシンタンパク質の構造解析に供する予定である。本研究課題で使用する実験機器の多くは、研究代表者が所属する東海大学糖鎖科学研究所に常備されているが、実験機器や手技の特殊性により研究計画の遂行が困難な場合は、必要に応じて東海大学医学部の受託研究や市販の受託サービス等を利用する。 新規に準備の必要な実験計画として、四倍体胚補完法では共同研究もしくは受託サービス、生細胞での細胞内小器官の動態観察では標識試薬や顕微鏡観察用器具、タンパク質精製実験では抗体カラム作製試薬や精製カラムを用いたシステムの構築、質量分析計による糖鎖構造解析では共同研究や分析器具などにおいて、研究機器の使用料や試薬等の購入費が発生する予定である。また、研究成果を公表するための学会参加費や論文投稿料、実験動物の購入・飼育管理費にも使用する。
|