今年度は引き続き,MEMS技術を用いてMicrogroove実装PDMS製薄膜を組み込んだ実験デバイスを作製し,実験に用いた.このデバイスは腱細胞がin vivoで見せる形態・配向が再現できるようMicrogrooveの幅・間隔・深さの3つのパラメータが最適化され,繰返し引張りひずみと流れせん断応力を培養環境下で選択的あるいは同時に細胞に作用させることが可能である.ウシ前肢中指足関節伸筋腱から採取した腱細胞の懸濁液をデバイス流路入り口から流し込み,静置培養することでMicrogroove内への接着を促進し,腱組織環境を模擬した実験系を確立した. このデバイスを顕微鏡ステージ上で伸展する繰返し引張り・流れせん断刺激同時負荷装置に装着し,北海道大学ニコンイメージングセンター所有の共焦点走査型レーザー顕微鏡を用いた細胞応答のリアルタイム観察を行った. まず,昨年度に引き続き,腱細胞のカルシウムイオン応答を観察した. 4%または8%の繰返し引張りひずみ,または0.1Paまたは0.1mPaオーダーの流れせん断応力をそれぞれ独立に負荷した. 更に,別の実験において引張りひずみとせん断応力を同時に負荷した.その結果,生理的レベルの力学負荷に対して細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる細胞が観察され,特に同時引張りひずみ・せん断同時負荷の場合は反応を示す細胞の割合が有意に増加したことが示された. またギャップ結合を介した細胞間物質輸送をFLIP実験によって定量的に評価することにも成功し,力学刺激が及ぼすギャップ結合物質輸送への影響を調べた.これらのことから,腱細胞は引張り刺激と流れせん断刺激の両方に対してメカノセンシティブであることがわかり,その応答は単一細胞レベルと複数細胞レベルの両方で起こることが明らかにされた.
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