研究課題/領域番号 |
23700527
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
百武 徹 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20335582)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 微小循環 / 格子ボルツマン法 / 人工赤血球 / 埋め込み境界法 |
研究概要 |
微小循環内における人工赤血球の様々な効果を調べるために,本年度は,具体的な病態として肺細動脈の狭窄により全身への酸素供給能力の低下や血圧の増加を引き起こす肺高血圧症(PPH)を取り上げた解析を行った.これまで,我々の研究において,人工赤血球の流動特性は,赤血球の変形や回転によるまわりの血漿の撹拌による影響が大きいことが分かっている.そこでまず,本研究では,微小循環領域での狭窄部をモデル化し,格子ボルツマン法及び埋め込み境界法を用いた数値解析により,微小血管の狭窄部における赤血球の挙動及び流動特性を調べた.解析の結果,狭窄部が大きくなるほど,また表面積が大きくなるほど管路の流動抵抗が増加することがわかった.また,微小血管狭窄部において,赤血球の初期配置が管路の流動抵抗に大きな影響をもたらすことが明らかとなった.主にその二つの傾向と要因は以下のとおりである.狭窄部通過時における赤血球の形状のパターンは,Parachute typeとStreamline typeの2つに分けられ,流れ方向の投影面積が大きいParachute typeの場合のほうが,流動抵抗が増加することがわかった.また,赤血球の初期位置が中心軸よりのほうがParachute typeになりやすいが,配置時の姿勢が0 deg(流線に沿った姿勢)だと,Parachute typeにはならない.赤血球の初期位置が速度勾配の大きい壁面よりのほうが,狭窄部通過時において血球と流体(血漿)の相対速度が増加し,管路の流動抵抗が増加することがわかった.これらの研究成果は,PPHのような病的に微小血管部が狭窄した部分を赤血球と人工赤血球が混在して流れる場合の人工赤血球の流動特性を解明するうえで重要な知見となりうるだろう.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の計画は,大きく分けて2点ある.一つ目は人工赤血球と赤血球の混在する微小血管内の酸素運搬・供給シミュレーション手法の確立である.もっとも大きく進展した点は,プログラムコードの3次元化である.これにより,実際に即した現象(赤血球の軸集中,連銭現象,変形能低下など)の赤血球のレオロジー的特徴の再現を達成した.酸素拡散現象のモデル化については現在進行中である.二つ目は,病変を伴う微小血管形状や病的な状態の赤血球を含む流れに対して解析コードを適用することである.これに関しては,具体的な病態として肺細動脈の狭窄により全身への酸素供給能力の低下や血圧の増加を引き起こす肺高血圧症(PPH)を取り上げた解析を行った.さらに分岐部の解析も現在進行中である.以上より,全体として研究計画はおおむね順調に進展している.
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度に引き続き,まずは次の2点について研究を推進していく予定である.まずは,微小血管内の置ける人工赤血球の酸素拡散現象のモデル化である.これについては,Palmerらにおけるヘモグロビン単体におけるモデルをベースに,250nm~300nmと粒子径が変化した場合について比較検証を行っていく予定である.もう一つは,病的な血管における流動特性の解析である.微小血管狭窄内については複数の赤血球を投入した場合について今後は解析を行っていく予定である.さらに微小血管分岐部についても引き続き解析を行っていく.これらの結果をもとに,全身循環モデルへ組み込むことで,各疾患に対する人工赤血球酸素運搬効果について調査を行っていく.
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は,引き続き解析プログラムコードの改良と解析結果の整理を行っていく計画である.そのために,パソコン周辺機器などを購入する予定である.また,研究成果について,学会等での発表,論文の投稿を予定している.そのため,旅費の計上,論文投稿料の計上を行っている.
|