研究課題/領域番号 |
23700531
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
川島 貴弘 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50378270)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ナノニードルアレイ / 細胞機能イメージング / SICM / SNOM / 多点同時計測 / BioMEMS |
研究概要 |
本研究は,細胞機能の発現過程における"細胞の動的形態"および"細胞内で発現する生体分子"を時間的・空間的に可視化することを可能とする「細胞機能イメージング用ナノニードルアレイ」の開発を行うことを目標として実施した.得られた成果は以下のとおりである.(1)EB(electron beam)リソグラフィおよびSiの深堀りエッチング(DRIE)を用いたMEMS技術によって,基礎実験としてナノニードル先端部の形成を行った.その結果,内径720 nm,外径970 nm,長さ4.7 μm(露出部)を有したナノニードルが実現可能であることを示した.さらに,基板両面からDRIEプロセスを実施し,基板裏面との貫通孔を有したナノニードルをアレイにて作製可能であることを実証し,細胞機能のイメージングを実現するためのキーデバイスとなるナノニードルアレイの作製プロセスの確立を行った.(2)ナノニードルの代替としてガラスピペット(先端内径400 nm)をプローブとして用い,細胞形態をイメージングするための走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)の性能の評価を行った.プローブ励振による変調方式(周波数:100 Hz,振動振幅:約100 nm)を用いて,薬品によって固定化したHeLa細胞(ヒト子宮頚癌細胞)に対して,培養液中での形態イメージングを行った.その結果,光学顕微鏡像に対応するHeLa細胞の形態イメージが取得可能であることを示した.さらに,多点計測に向けた実験として,隣接するプローブ間での電気的クロストークの影響も検討した.ガラスピペット先端間の距離を140 μmとし,励振周波数を100 Hz,振動振幅を約100 nmとしてアプローチカーブを取得した結果,プローブ間のクロストークは確認できず,多点でのイオン電流計測が可能であることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,当初計画において,ナノニードルアレイの作製プロセスを確立し,SICM計測性能,走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)としての蛍光イメージング性能および多点での計測性能の評価を行うことを計画した.そうした中で,EBリソグラフィおよびDRIEを用いたMEMS技術によって,基板裏面との貫通孔を有したナノニードルをアレイにて作製可能であることを実証したが,ナノニードルの作製プロセスの確立に時間を要したことで,ナノニードルを用いた細胞機能イメージングの評価を進められていない.しかしながら,その代替としてナノメートルオーダの開口部(内径:400 nm)を有したガラスピペットをプローブとして用い,プローブを励振させた信号変調方式によるイオン電流計測性能を評価し,2.5時間に及ぶ計測においてもオフセットやドリフトの影響が少なくHeLa細胞の形態をイメージング可能であることを示しており,より高精度な測定の実現可能性を示してきている.また,多点での計測に向けて,隣接するプローブ間での電気的クロストークの影響も検討し,ガラスピペット間距離を140 μmとしたプローブ励振による変調方式において計測されるイオン電流に対してクロストークの影響がないことを確認しており,多点でのイオン電流計測の可能性も示してきている.今後は,ナノニードルを用いたイオン電流の計測性能の評価を行う.一方,走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)としての蛍光イメージング性能の評価は十分に行えていないため,プローブ先端部における発光の有無の評価や光の伝搬強度をCCDカメラなどを用いて検出し,局所的な蛍光誘起の実現可能性を検証する必要があり,平成24年度の課題として引き続き,その評価を行う.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度では,ナノニードルを用いた形状および蛍光イメージの同時取得を実現するための検証実験を行う.このためには,SNOM計測性能の評価が必要となる.ナノニードルの作製には時間を要すことから,まずはガラスピペットを用いて,プローブ先端部における発光の有無や,細胞膜あるいは細胞骨格を蛍光標識した細胞(HeLa細胞など)を対象に局所的な蛍光誘起の実現可能性を検証するための基礎実験を行い,その計測性能の評価を行うことでSICM・SNOMの同時計測を実現可能とするシステムの構築を行う.これらの実験を通して基礎評価を行った後,ナノニードルを用いたSICMによる形状およびSNOMによる蛍光イメージの同時取得行うための実験を蛍光標識した細胞(HeLa細胞など)に対して行い,最終的には,ナノニードルアレイを用いた細胞機能イメージングを実現する計画である.細胞機能の発現過程における"イオン電流計測に基づいた細胞の形態イメージング"および"細胞内で発現する生体分子の蛍光イメージング"を時間的・空間的に同時にマッピングすることを実現する「細胞機能イメージング用ナノニードルアレイ」を用い,ステージ等の駆動系とを連動させた多点同時計測システムの確立も行うことによって,細胞の形状計測(分解能100nm)と蛍光イメージング(分解能100nm)の同時多点計測の実現する高効率かつ網羅的に解析を可能とする高度な細胞機能解析システムが実現することを目標とする.
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次年度の研究費の使用計画 |
SNOMの計測性能の評価で必要となる高出力固体レーザは平成23年度に導入予定であったが,仕様選定に時間を要したため平成24年度4月の導入となる.関連する位相変調器も平成24 年度の導入となる.また,消耗品として,計測システムの構築に必要となる光学素子も購入を行う.そのほかの消耗品としては,デバイスの作製に必要となるシリコンウェハ,フォトマスク,半導体プロセス用のガス・薬品類の購入を行うことを計画している.旅費等の内訳については,平成24年度は,国内旅費として成果発表(国内会議 ×1回)および本研究に関連するシンポジウム・研究会への参加費(東京日帰り ×2回)に加え海外旅費(国際会議 ×1回)および学会誌への研究成果投稿料(×1回)を計画し,本研究課題でえられた成果を広く世に公開する.また,研究内容と研究成果を広く一般にも公開するために,ホームページの更新や研究成果広報用パンフレット作成を行うなどによって,その成果を発信することも計画している.
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