研究課題
生体外部から細胞移植を行う細胞治療において、その治療効果を調べるために、移植細胞の標的部位での経時的な増殖・分化状態を分子・細胞レベルで低侵襲的に診断するための手法が求められている。というのも、これまでのX線、PET、MRIなどの単一エネルギーの手段では、細胞の位置とその生理的状態など多次元情報を同時に取得することができず、効率的な治療を行うことができなかったからである。特に再生医療の分野においては、iPS細胞から分化した細胞の目的部位への移植後の状態や、免疫療法での樹上細胞によるがん細胞の免疫療法の効果など、時間・空間的に長期にわたる効果を低侵襲的に診断する方法の確立が急がれている。そのためには、標的細胞をMRI、および蛍光で長期間追跡可能な安定なプローブを開発する必要がある。そこで本課題では、ダイヤモンド内部に、磁場、および光に応答する安定欠陥を創製し、かつ生体環境下で安定に局在できる表面修飾法の開発を行うことにした。 今年度は、標的細胞を生体環境下で長期間安定にMRIと蛍光によりそれぞれ検出するため、ナノダイヤモンドプローブ(ND)の創製を行った。MRI、および蛍光で検出できるようにするため、ナノダイヤモンドにMn+イオン、およびHe+イオン注入をそれぞれ行った。イオン注入後、アニールと空気酸化処理を行い、さらに表面に金ナノ粒子を付加した後、ポリエチレングリコールを付加した。この結果、生体環境下で1週間以上にわたり安定に分散することが分かった。PEG化処理したMn注入磁性NDのMRI造影能を評価するため、マウス尾静脈からサンプルを投与後、肝臓への蓄積をT1強調画像で評価したところ、経時的に蓄積していった。また、PEG化処理したHeイオン注入蛍光NDをHela細胞に投与したところ、無退色・無点滅の特性を長期間維持できることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、磁場、および光に応答し、かつ生体環境下で安定に分散するダイヤモンドナノ粒子を創製することが主な目的であった。その観点から、Mnイオン、およびHeイオン注入サンプルに金ナノ粒子を付加することで、簡便にチオール基を持つ化合物を付与できるようになったことは大きな進展である。その結果、粒径、表面官能基の種類を改変できるようになり、来年度の生体特異性付与のための基本技術を確立したと言える。
今後は、生体環境下での長期間観察、とくに免疫系のイメージングへの展開を主に行っていく。そのためにMRI造影能、および蛍光強度の増大を図るため、イオン注入時の注入量を変化させ、その効果を検討する。また、磁場、および光応答性ダイヤモンドナノ粒子の表面官能基の種類の変化により、膝窩リンパ節への移行能に違いがあるか検証する。また、イメージングプローブとしてだけでなく、治療効果も保持できるようにするため、ワクチンアジュバントの保持も同時に行い、所属リンパ節での効果を確認するような実験系を確立していく。
イオン注入費用、およびその後の表面にかかる試薬の購入を行う。さらに生体での評価のための実験動物などの購入費用が必要となる。
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J. Synchrotron Rad.
巻: 18 ページ: 747-752