研究課題/領域番号 |
23700544
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
清野 健 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (40434071)
|
キーワード | ノンインベイシブ心電学 / 心拍変動 / 非ガウス統計 / 心房細動 |
研究概要 |
(1) 心房細動における房室結節特性の評価法の開発 心房細動時には心房が洞房結節の刺激とは無関係に不規則に振る舞う.そのため,心房細動では秩序だった心室応答の調律がほとんど失われた状態にあると考えられており,心房細動は絶対性不整脈と呼ばれている.心房細動では,正常な洞調律の場合と比べて,心室応答の時間間隔に不規則性がみられるとはいえ,その動的特性は主に房室結節の不応期と不顕伝導の性質に依存して変化することが知られている.房室結節は自律神経系の制御を受けるため,不応期と不顕伝導についても自律神経系の作用によりその特性が変化する.従来の知見では,不応期が交感神経,副交感(迷走)神経で調節されるのに対し,不顕伝導は迷走神経による影響が強いとされている.本研究では,心房細動患者における房室結節の特性の評価するため,心室応答間隔の時系列に基づく分析手法を開発した.ここでは,主に睡眠時無呼吸症候群にみられる呼吸停止などのイベントが房室結節および心室応答間隔に影響をあたえるかどうかを調べ,心房細動にも無呼吸低呼吸と関連した心室応答の変動がみられることを明らかにした.さらに,このような心拍変動の特徴をスペクトル解析で評価することで,睡眠時無呼吸症候群の重症度を判定する方法を開発した. (2) 心拍変動の非対称性 Bauerらは,心拍数の上昇時と減少時を分けて解析するphase-rectified signal averaging (PRSA)という方法を提案している.この分析法は,心拍変動に作用する自律神経のうち交感神経と副交感神経を相対的に分けて評価することを意図したものである.本研究では,PRSAが交感神経と副交感神経の活動の違いを評価できているかどうかを調べた.健常人約100名を対象とした分析では,そのような違いはほとんど見られず,心拍変動にほぼ対称な振舞いが見られた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,心房細動患者の心拍変動の解析を中心として研究を進め,いくつかの大きな成果をえることができた.心房細動は,高齢者に多くみられる不整脈であり,日本国内に潜在的に200万人を超える患者がいるといわれている.心房細動は睡眠時無呼吸症候群に合併しやすいこと,また,脳梗塞の発生と密接に関わることが知られており,心拍変動患者の心拍変動の分析を通じて,その発生リスクが推定できるようになれば,その有用性は大きい.本年度の研究において,睡眠時無呼吸と脳梗塞のリスク因子を見出すことができたことは大きな進展といえる.
|
今後の研究の推進方策 |
(1) 心拍変動の非ガウス統計の数学的基礎の確立 これまで,本研究では心拍変動の非ガウス性が鬱血性心不全および心筋梗塞後患者の死亡リスクの予測因子であることを見出してきた.その解析において,現象論的に導入された非ガウスモデルが仮定されてきたが,その数学的基礎には不完全な部分が残されている.今後の研究では,最大エントロピー原理,Mellin変換といった方法を応用し,数学的基礎理論の確立を目指す.一方,本研究に関連する非ガウスモデルとして,マルチフラクタルモデル,superstatistics, Levy安定分布などがあり,これらを含む一般的な非ガウス統計の枠組みの構築も重要である.この点についても研究を進める. (2) 心拍変動の特性に影響を与える環境要因の調査 いくつかの心拍変動指標に,概日リズムがみられることが知られている.一方で心臓死の発生件数に日内変動,季節性変動がみられることが知られている.このよな心臓死の発生と関連する心拍変動指標を調べ,その原因となる環境要因を明らかにする.現在,心拍変動の大規模データベースの構築がすすめられており,そのようなデータベースの解析に応用可能な分析手法の解析についても取り組む.
|
次年度の研究費の使用計画 |
6月にフランスで開催される国際会議ICNF2013に参加するため,その旅費に使用する.加えて,国内学会での研究成果発表のための旅費にも使用する予定である.その他の部分は,主に時系列解析に使用するソフトウェアや計算機の周辺機器の購入に使用する.
|