研究概要 |
動脈硬化形成過程では、病変部位近傍において血液中の単球が血管内皮細胞に接着し、内皮下組織へ潜り込む(浸潤)ことが重要なステップと考えられているが、その生理的意義は十分に理解されていない。我々は生細胞イメージングにより、浸潤した単球の一部が内皮上へ“逆浸潤”する現象を確認した。このことから、単球は1)内皮下浸潤→2)内皮下に蓄積した病態因子の貪食→3)血管内への逆浸潤、という過程により血管壁の病態因子を除去する“動脈硬化阻止機能”を生理的に有しており、この機能不全が病態を促進するという仮説を着想した。逆浸潤現象はこれまで殆ど研究されていない為、最初に評価系の確立を行った。単球を内皮に添加して1時間反応後、PBS(+)洗浄により未浸潤単球のみを除去した。その後反応を再開することにより、浸潤単球の逆浸潤現象を捉えることに成功した。高濃度のIL-1betaにより逆浸潤が選択的に抑制される傾向があり、動脈硬化のような強い炎症下では逆浸潤が阻害され、先述の“動脈硬化阻止システム”の傷害が示唆される結果であった。現在、内皮細胞間隙分子(PECAM-1, VE-cadherin)の関与を検討中である。 浸潤する単球と内皮細胞との接触部では微細な膜の変形・伸展等の“物理的・機械的”な刺激が発生しており、これを感知し、適切な細胞反応を導く制御系の存在が想定される。我々は、既報の機械刺激感受性分子のうち、Ca2+の流入経路として機能するTRPV2に着目し、内皮細胞における役割を検討した。本分子のノックダウン細胞では、細胞の動きが抑制され、仮足形成能の障害が示唆された。一方、活発に遊走する細胞ではTRPV2の発現が上昇していた。以上より、TRPV2は内皮細胞が仮足を形成して動く為に必要であると考えられた。現在、本現象の分子機序を明らかにする為、細胞骨格系、細胞周期系に着目して解析を進めている。
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