研究課題/領域番号 |
23700554
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山田 真澄 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (30546784)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | マイクロ流体システム / ハイドロゲル / 組織工学 |
研究概要 |
本年度は、物理・化学的性質の異なるマイクロメートルスケールのパターンによって構成された複合的ハイドロゲル材料の開発を行った。まず断面が複数の部分によって構成される複合ファイバーおよびリボン状シートを作製するための新規手法の開発を行い、細胞培養系への応用を試みた。具体的には、アルギン酸ナトリウムとアルギン酸プロピレングリコールの混合溶液を用い、それらの濃度を変化させたゾル溶液を流路内でゲル化することによって、ゲル化後に物理的強度の異なる部分を有するファイバーを作製し、また、部分的にコラーゲンを含有したハイドロゲル材料の作製を行った。また、初代肝細胞および非実質細胞を高密度に内包したハイドロゲル材料を作製し、細胞を培養することによって、線形のオルガノイドの作製に成功し、肝細胞機能を長期に渡って維持可能であることを確認した。さらに、神経様細胞であるPC12を用いて、細胞成長および神経突起の伸長方向の制御に成功した。また、機能的ハイドロゲル粒子として、内部への効率的な酸素・栄養分の供給を可能とする毛糸玉状の複合ハイドロゲル粒子を作製するための流路システムを提案し、細胞培養担体としての利用可能性を評価するために細胞培養実験を行った。直径100~300ミクロン、ファイバー径数十ミクロンの毛糸玉状粒子の作製を行い,操作パラメーターが粒子形状に与える要因の評価を行った。また,異なる複数のファイバー成分からなるハイドロゲル粒子を作製した。また、成分の異なる部分がストライプ状あるいは積層状に配置されたリボン状のハイドロゲル材料を作製するための新規手法を提案し、異種細胞の高密度包埋および複合組織の形成を行ったほか,親疎水性のパターンを利用した基板上へのハイドロゲルをパターニング法の開発を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標としていた機能性・複合型ハイドロゲル構造の作製については,主にアルギン酸を用いて、ファイバー状、粒子状、リボン状のハイドロゲル構造体の作製手法を確立し、またそれらに細胞を包埋することによって、新規3次元細胞培養基材としての応用可能性を示すことができた。組織の単位モデルとして、肝組織・神経網・血管構造等を作製する予定であったが、まず肝組織については、肝細胞と非実質細胞を内包することによって、複合型肝組織体の形成を行い、アルブミン産生・尿素合成などの肝機能が長期に渡って維持されることを確認することができた。現在は、より詳細な培養実験の最適化を行うとともに、肝細胞の持つ他の機能について、遺伝子発現解析を行っている段階である。神経組織については、モデル細胞PC12を用いた系で実験を行うことによって、複合ファイバー内で神経突起伸長方向の制御が可能であることを実証し、実際の神経束構造を模倣した構造の作製を行った。また、機能的粒子・リボン状粒子についても、当初の計画通り、作製のための基盤技術の確立を行うことができた。以上の結果より、当初の計画に対し全体的に概ね順調に実験研究が進捗したと言える。なお、単位構造としての血管構造については、複合型ファイバーを利用して作製する予定であったため、実際に血管内皮細胞および平滑筋細胞を用いた組織体構築を試みたものの、十分な試行回数が確保できず、細胞培養時の条件検討が不十分であり、再現性のとれるデータを得られるには至っていない。そのため,この件については2年度目に引き続き詳細な検討を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる本年度は、個別のハイドロゲル材料の更なる機能化を行い、ゲルに内包した細胞機能の詳細な評価を引き続き行うとともに、これらの個別材料を複合化・組織化することによって、より大きな組織体の作製を目指す。個別の単位材料・組織としては、肝組織体についてはCYP活性の測定やmRNAの定量解析を行い、その機能維持の向上を図るほか,神経様組織についてはより長く高密度な細胞ネットワークの形成を試みる。また、異方的なハイドロゲル内部にて筋芽細胞の培養と分化制御を行うことにより、筋組織形成を試み,物理・化学的刺激を加えることによってそれらの影響を評価する予定である。また毛糸玉状ハイドロゲル粒子については,複数種の細胞を個別に内包した複数のハイドロゲルファイバーから形成されるハイドロゲルの開発を行う。さらに微小ハイドロゲル粒子に関しては,これまでに作製を行ってきたアルギン酸のみならず,コラーゲン・ゼラチン等の生体親和性のより高い材料を用いて微粒子を作製した上で,ヘテロ細胞集塊の形成や細胞培養担体としての応用可能性を追求する予定である。そしてこれら個別材料の複合化については,ビオチン・アビジン相互作用や静電的相互作用等を利用して,複合型ハイドロゲルシートに対しハイドロゲル粒子を配置するための方法論の確立を行うほか,他のシート状・表面パターン化・ハイドロゲルブロック構造等の個別材料,さらにはハイドロゲルを含まない複合型細胞集塊等を用い,それらを組み合わせるための新規手法の開発を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に細胞実験用試薬(培地,血清,増殖因子,ゲル材料等),細胞実験用器具類(シャーレ,フラスコ,ピペット等),ファブリケーション試薬・器具類(マスク,シリコンウエハ,ポリマー基材,レジスト等),細胞機能評価試薬類(PCR試薬,免疫染色・分析用試薬等)などの消耗品の購入を主とし,一部,研究成果発表のための学会参加費・旅費としての支出を計画している。研究備品の購入については現時点では計画していない。
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