研究課題/領域番号 |
23700559
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
有馬 祐介 京都大学, 再生医科学研究所, 助教 (90402792)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 表面プラズモン共鳴 / 蛍光計測 / バイオセンサー / タンパク吸着 |
研究概要 |
材料表面に吸着したタンパク質の配向・形態変化をin situで評価できる手法の確立を目指し,蛍光標識した抗体の吸着挙動を表面プラズモン励起蛍光分光法(SPFS)を用いて測定した。蛍光標識抗体を吸着させると,抗体の吸着状態によって蛍光分子-金表面間の平均距離が変化し,その距離に依存した蛍光エネルギー移動による消光が起こる。この蛍光の消光現象を利用してセンサー表面上の抗体の吸着状態の評価を試みた。メチル基およびアミノ基を有する自己組織化単分子膜(SAM)をモデル表面として用いた。蛍光標識した抗α-フェトプロテイン(AFP)抗体をSAM表面上に流し,そのときの反射光強度および蛍光強度の経時変化を測定した。抗体の環流中,反射光強度および蛍光強度は時間と共に増加した。反射光強度変化は吸着量に比例し,蛍光強度は吸着量および蛍光分子-金間距離に関する2つの情報を含んでいる。このため,蛍光強度を反射光強度で割り,抗体分子当たりの蛍光強度を比較すると,アミノ基を有するSAMの方が低くなった。アミノ基SAM上の抗体は変性もしくは表面に横たわった形態(side-on)を取ることによって蛍光分子-金の平均距離が小さくなったと考えられる。次に,吸着した抗体への抗原(AFP)結合量を調べたところ,アミノ基を有するSAM上に吸着した抗体の方が低かった。蛍光測定の結果と合わせると,アミノ基SAM上の抗体は吸着に伴う変性または形態変化によって抗原結合活性が低下したと考えられる。このことから,SPFSを用いることで抗体の吸着形態に関する情報を得られることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
蛍光標識条件を検討することで,抗体への蛍光色素標識数をSPFS測定に適した値(抗体1分子あたり蛍光色素数1分子)に制御することができた。蛍光標識抗体の吸着挙動をSPFSを用いてリアルタイム測定したところ,抗体を吸着させる表面特性によって蛍光強度が大きく異なること,および蛍光強度変化と吸着抗体の抗原結合活性に相関性があることが新たに見いだされた。このことから,本手法によって吸着した抗体の量的な評価だけではなく質的な評価(配向や形態変化など)も可能であることが示唆され,所定の成果をおおむね達成したと言える。しかし,蛍光強度の解釈については幾つかの可能性が残されており,蛍光強度から抗体の吸着状態を一義的に決定することについては残された課題である。この課題を解決するために,来年度は様々な状態で吸着した抗体のSPFS測定を行い情報の蓄積を行うと共に,吸着状態を一義的に決定する手法を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で残された課題(蛍光強度と吸着形態の相関性)については,抗原を固定化した表面へ蛍光標識抗体を結合させ,そのときの蛍光強度変化を他の吸着状態の結果と比較する。次に,遺伝子組み換え技術を用いて低分子化抗体への位置選択的な蛍光標識を行う。低分子化抗体(scFv)のN末端またはC末端へヒスチジンタグを導入し,蛍光色素とのキレート化によって蛍光色素を抗体に結合させる。様々な表面に対する標識抗体の吸着挙動をSPFSを用いてリアルタイム測定し,蛍光強度と吸着形態および抗原結合活性との相関性について調べる。また,細胞接着性タンパク質への位置選択的な蛍光標識についても検討する。上述のヒスチジンタグを用いた末端への蛍光標識だけでなく,クリック反応(アルキン‐アジド反応)を用いた生理活性部位近傍への蛍光標識について取り組む。蛍光標識タンパク質が予定通り作製できれば,それを用いて材料表面への吸着挙動解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
SPFS測定に必要なガラス基板や試薬類は,これまでのSPFSを用いた研究における使用頻度に基づいて購入する。遺伝子組み換え実験および細胞培養実験についても,その実験に見合った量の試薬・器具を購入する。また,2,3回の国内学会成果発表(国外は1回)を予定しており,その参加費や宿泊費に充てる。さらに,研究成果を論文発表するにあたり必要な英文校正費にも使用予定である。
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