研究課題/領域番号 |
23700563
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
弓場 英司 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80582296)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | pH応答性高分子 / リポソーム / 膜融合 / 樹状細胞 / 細胞質デリバリー / 遺伝子 / 細胞障害性T細胞 / ナノワクチン |
研究概要 |
本年度は、タンパク質と遺伝子を同時にデリバリーすることで高い免疫誘導活性を実現できる多重デリバリーナノワクチンキャリアの構築を目指し、その各コンポーネントの最適化を行った。 キャリアの膜融合性コンポーネントであるpH応答性膜融合リポソームの性能をさらに向上させるため、従来よりも疎水性の高い側鎖構造を有するポリグリシドール誘導体、及び生体適合性の高い骨格としてデキストラン誘導体を合成した。これらの高分子を修飾したリポソームは、従来の膜融合ポリマーよりも高いpH領域で脂質膜の不安定化を誘起し、ポリマーの側鎖構造によってpH応答性を制御することができた。リポソームにモデルタンパク質・オブアルブミン(OVA)を内包しDC2.4細胞に取りこませたところ、pH応答性ポリマーを修飾したリポソームは従来のポリマー修飾リポソームよりも効率良く取り込まれ、さらに細胞のサイトゾルにOVAを効果的に運搬した。これらのリポソームを、E.G7-OVA細胞を接種し腫瘍を形成させたC57BL/6マウスの背部皮下に投与したところ、未修飾リポソームを投与したマウスでは腫瘍が未処理群と同様に成長したが、pH応答性ポリマーを修飾したリポソームを投与したマウスでは腫瘍が縮小し、一部では完全に消失したマウスも見られた。これは、pH応答性ポリマー修飾リポソームが皮下の免疫担当細胞に取り込まれた後、細胞内の酸性小胞において不安定化し、内封したOVAを細胞質に導入した結果、抗腫瘍免疫を強力に誘導したためであると考えられる。 また、遺伝子デリバリーコンポーネントであるリポプレックスに用いるカチオン性脂質のアジュバント効果についても検討し、カチオン性脂質の導入が、樹状細胞の免疫誘導能に強く影響することがわかった。以上のように、本年度は各機能コンポーネントを最適化し、多重デリバリーナノワクチンキャリア構築のための基盤を築いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、多重デリバリーナノワクチンの各コンポーネントの最適化を行い、ハイブリッド複合体構築のための基礎検討を中心に行った。 側鎖疎水性の高いpH応答性ポリグリシドール誘導体を合成し、これを修飾したリポソームによって、より低修飾量で強い膜融合性を発現する新規pH応答性ポリマーの開発に成功した。このポリマー修飾リポソームを用いることで、樹状細胞によるリポソームの取り込みが上昇し、さらにサイトゾルへの高効率なデリバリーを行うことができた。これをマウスに投与すると、腫瘍が著しく縮退し、強力ながん免疫を誘導できることが示された。また、多糖を主鎖骨格に持つ膜融合性ポリマーを修飾したリポソームについてもマウス腫瘍を縮退させることのできるほど強力ながん免疫の誘導を達成した。 一方、ハイブリッド複合体のコア部に用いるカチオン性脂質が免疫誘導機能に及ぼす影響についても検討を行った。カチオン性脂質の導入によって、細胞による取り込みが劇的に向上し、加えて従来とは異なる経路の免疫反応を誘導できることが示唆された。ハイブリッド複合体に用いる、抗原をコードした遺伝子(pCMV-OVA)については、OVAのcDNAを発現ベクターに組み込んでサブクローニングを行うことで調製し、シーケンス解析によって、完全にOVA遺伝子をコードしたプラスミドDNAを得ることができた。 以上のように、本年度は各機能コーポンネントの最適化を中心に研究を進めたため、実際のハイブリッド複合体の調製と、その組成最適化、免疫誘導評価については今後速やかに行う必要がある。しかし、各々最適化されたコンポーネントを用いてハイブリッド複合体を作製するため、得られるハイブリッド複合体も最適化されたものとして作製され、期待する高い免疫誘導効果が得られるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度においてハイブリッド複合体の各機能コンポーネントである(1)pH応答性膜融合性ポリマー修飾リポソーム、(2)カチオン性脂質、(3)遺伝子の最適化を行った。そこで次年度は、まずこれらの機能コンポーネントをアセンブリーすることでハイブリッド複合体を調製する。 具体的には、抗原遺伝子をコードしたプラスミドpCMV-OVAとカチオン性脂質との複合体を作製し、そこに抗原タンパク質を封入したpH応答性膜融合リポソームをハイブリッド化させる。得られたハイブリッド複合体の物性について、DNAとの複合体形成能をアガロースゲル電気泳動によって、抗原タンパク質の封入効率を蛍光測定によって評価する。また複合体の形態を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察し、期待されるハイブリッド複合体が得られるかを検討する。 次に、複合体の遺伝子導入活性及び抗原タンパク質導入機能について、マウス樹状細胞株を用いて評価する。遺伝子導入活性についてはEGFP遺伝子を含むハイブリッド複合体を用いて評価する。また、蛍光ラベルした遺伝子とタンパク質を包埋したハイブリッド複合体を取り込ませた細胞を顕微鏡観察し、遺伝子とタンパク質の同時デリバリーが達成できるかを検証する。 続いて、ハイブリッド複合体を用いてin vitroで免疫誘導能を評価することで、抗原遺伝子とタンパク質の同時デリバリーが免疫誘導機能に及ぼす影響、重要性について検証する。具体的にはハイブリッド複合体をマウス骨髄由来樹状細胞に取り込ませ、ELISA法を用いて各種サイトカインの産生効率を測定することにより免疫反応を評価する。最後に、マウスにハイブリッド複合体を投与し乳酸脱水素酵素(LDH)アッセイやELISA法によって誘導される免疫反応を測定する。さらに、担癌マウスを用いて腫瘍成長抑制試験を行い、多重デリバリーナノキャリアのワクチンとしての有用性を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、ハイブリッド複合体構築のための基礎的検討を中心に研究を推進したため、研究費の使途は主に消耗品と旅費であり、設備備品は購入しなかったことから、次年度への繰越金が発生した。次年度は、本年度の結果を基盤にして、ハイブリッド複合体を調製し、その物性を調べるとともに、in vitroでの免疫誘導実験、及びマウスを用いた免疫誘導実験を行う。 したがって、研究費としては主にハイブリッド複合体調製用の試薬、器具、遺伝子抽出用のキット、細胞培養維持関連器具、細胞内動態観察用の蛍光ラベル化試薬、細胞内オルガネラ染色試薬、サイトカイン産生量測定用のELISAキット、マウス及びその飼料、免疫反応測定用のキットなどを消耗品費として計上する。また、購入予定であったプレートリーダーに関しては研究代表者の研究室の別の研究者が購入したことから、OVA遺伝子の発現・導入を確認するためのPCRシステムを代替として計上する。また、得られた研究成果を学会において発表するための旅費・参加費を計上する。さらに学術論文として発表を行うために論文校正費を計上する。
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