本年度は、昨年度に最適化したカチオン性脂質-遺伝子複合体と、タンパク質を内包した膜融合性ポリマー修飾リポソームを複合化することで、タンパク質と遺伝子を同時にデリバリーし、高い免疫誘導を実現できる多重デリバリーナノワクチンキャリアの構築とその機能評価を行った。 カチオン性脂質-遺伝子複合体の混合比(電荷比)と、これに複合化させる膜融合性リポソームの混合比を調整することで、免疫細胞にタンパク質・遺伝子を同時デリバリーするためのハイブリッド複合体を作製した。実際、蛍光ラベルした遺伝子・タンパク質を包埋した複合体を樹状細胞に取り込ませると、遺伝子・タンパク質両方の蛍光が細胞内に観察され、両者を細胞内に同時デリバリーすることができた。 これらの複合体を、抗原を発現したがん細胞であるE.G7-OVA細胞を接種し腫瘍を形成させたC57BL/6マウスの背部皮下に投与したところ、カチオン性脂質-遺伝子複合体のみ、膜融合性リポソームのみを投与したマウスに比べて、両者を複合化したハイブリッド複合体の方が強い抗腫瘍効果を示した。これは、膜融合性リポソームが、皮下の免疫担当細胞に取り込まれた後、細胞内の酸性小胞において不安定化し、内封した抗原タンパク質と遺伝子を細胞質に導入した結果、両者の相乗効果で抗腫瘍免疫を強力に誘導したためであると考えられる。 以上のように、タンパク質と遺伝子を同時にデリバリーすることによって高い免疫を誘導できるナノワクチンキャリアに成功し、同時デリバリーの重要性を明らかにすることができた。
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