研究課題/領域番号 |
23700569
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
石兼 真 独立行政法人国立循環器病研究センター, 再生医療部, 流動研究員 (40470190)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 卵膜 / 間葉系幹細胞 / 他家移植 / 細胞シート / 心筋梗塞 / 前臨床研究 / 血管新生効果 / パラクライン |
研究概要 |
胎児付属物である卵膜は間葉系幹細胞(MSC; mesenchymal stem cell)を豊富に含んでおり、細胞移植療法における細胞源として有望視されている。我々はヒト、ラットの卵膜からMSCを採取することに成功しており、ラット下肢虚血モデルにおいて卵膜由来MSCの他家移植は拒絶反応を回避し、血管新生効果を有することを明らかにした(Ishikane, et al. Stem Cells. 2008)。また、ラット心筋梗塞モデルに対する卵膜由来MSCシートの他家移植が心機能改善効果を有することを確認した。これらの結果に基づき、心不全に対する有効かつ安全な治療法を開発することを目的とし、他家卵膜由来MSC移植療法の確立に向けて大動物慢性心筋梗塞モデルを用いた治療効果、安全性についての前臨床研究を行った。 (1)近交系のミニブタであるクラウン系ミニブタ(妊娠3.5ヶ月)から卵膜を摘出し、培養皿接着性の細胞を分離・培養することに成功した。得られた細胞は、脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞への分化能を有しており、表面抗原の解析からMSCとしての定義を満たしていた。(2)得られたミニブタ卵膜由来MSCを用いて直径約5cmの細胞シートを作製した。さらに、細胞シートを3層に積層化することにより、シート強度を高めることに成功した。(3)アメロイドコンストリクターを左前下行肢に装着し、ミニブタ慢性心筋梗塞モデルを作製することに成功した。モデル作製4、12週間後に心機能が低下していることをエコー評価により確認した。モデル作製12週間後に心臓を摘出し、心筋線維化をマッソン・トリクローム染色により確認した。(4)心筋梗塞作製4週間後に再開胸し、3層積層化卵膜由来MSCシートを3枚用いて梗塞部位をカバーするように心臓表面に移植を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度は、大動物を用いて卵膜由来MSCシート移植療法の有効性や安全性についての評価を行うことを計画していた。妊娠ミニブタから卵膜を採取し、MSCを分離・培養することに成功しており、心機能低下、心筋線維化を示すミニブタ慢性心筋梗塞モデルを確立することができた。このモデルに対する卵膜由来MSCシートの移植も4例行っており、心機能改善効果の評価を現在行っている。例数を追加するとともに、移植細胞の生着性やテラトーマ形成といった安全性についての検討を進める予定である。大動物を用いて、細胞採取、細胞シートの作製、慢性心筋梗塞モデルの確立まで成功しており、治療効果の評価を進めていることから、進行状況は順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
心不全に対する卵膜由来MSC他家移植療法の有効性・安全性に関する前臨床研究を進めるとともに、虚血性疾患に対する卵膜由来MSC移植療法の治療効果をさらに高めることを目的とした基礎研究に着手する。 (1)ミニブタ慢性心筋梗塞モデルを作製し、コントロール群、卵膜由来MSCシート移植群の例数追加を行い、以下の評価を実施する。(1)心機能改善効果:エコー、PET。(2)血管新生・心血流増加効果:心血管造影、von Willebrand factor染色、PET。(3)心筋線維化抑制効果:マッソン・トリクローム染色。(4)移植部位における拒絶反応:H&E染色、T細胞・マクロファージ染色。 (2)卵膜由MSC移植による血管新生効果をより高めるために、siRNA-int6をMSCに導入して栄養因子分泌促進MSCシートを開発する。(1)siRNA-Int6導入したラット卵膜由来MSCのmRNA、培養上清を回収し、PCRやELISAによるVEGFやHGFの測定を行い、従来の細胞と比較して栄養因子分泌促進効果を評価する。(2)温度応答性培養皿を用いて、siRNA-int6導入卵膜由来MSCの細胞シートを作製する。(3)ラット慢性心筋梗塞モデルを用いて、従来の卵膜由来MSCシートと栄養因子分泌促進卵膜由来MSCシートの血管新生効果(von Willebrand factor染色)や心機能改善効果(エコー、カテーテル評価)について比較検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
心筋梗塞に対する卵膜由来MSC移植療法の確立を目的とした基礎研究、前臨床研究を計画しており、慢性心筋梗塞に対する卵膜由来MSCシート移植による心機能改善効果のみならず、拒絶反応や移植細胞の腫瘍化等の安全性についても検討を行う。研究経費の多くは心筋梗塞モデル作製のための実験動物(ミニブタ、ラット)の購入に充てる予定である。また、移植するために大量の細胞が必要となるため、細胞培養試薬・機材(メディウム、培養皿等)にも使用する。栄養因子分泌型MSCシートの開発にあたり、遺伝子導入試薬やアッセイ試薬(ELISA)も必要となるため研究費の使用を予定している。
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