研究課題/領域番号 |
23700574
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小塚 淳 独立行政法人理化学研究所, 細胞シグナル動態研究グループ, 研究員 (10432501)
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キーワード | 画像情報処理 / CT / ベイズ統計 / 超解像 / 像質改善 |
研究概要 |
非侵襲的に観測物体の内部構造を計測する技術は、計算機トモグラフィー(Computed Tomography, CT)と呼ばれ、CT装置は、観測物体を透過する放射線を撮像機器上へ投影した像を元にして断層像を再構成するシステムである。投影像は観測物体内の物理量分布を投影面方向に積分した像と考えられ、CTは様々な角度から撮影した投影像を元に、計算処理によって観測物体の断層像を推定するアルゴリズムである。これらの画像再構成の問題は基本的にRadon変換と呼ばれる投影変換を元に構成されている。現在最も普及している再構成アルゴリズムであるFiltered Back Projection (FBP)法では、検出器由来のノイズや撮像と再構成時の回転軸のズレ、撮像時の回転軸位置や回転量のゆらぎ等の影響は考慮されず、再構成像に様々なアーチファクトが発生する事が知られている。また、逆投影操作には再構成像全体にわたる積分操作が伴うため、情報が欠損している場合に致命的なアーチファクトを発生させやすい。一方、断層像の計算をフィッティング問題と捉え、推定断層像から計算した投影像が実際の投影像に一致するように逐次的に断層像を修正する反復法は、FBP法に比べ情報の欠損等に対して比較的頑強ではあるものの、アーチファクトの軽減に根本的な解決法を与えていない。そこで、本研究課題では、Radon変換を拡張した投影操作を生成系として持つような系を用いて定式化を行い、この定式化にベイズ統計に基づいた確率的画像処理の考え方を適用する。そして適宜、適当な事前知識を用いて、様々なアーチファクトを根本的に解消し、計測の分解能以上の再構成像を推定する超解像CTシステムを構築する。当該年度は、前年度に作成したベイズ統計に基づいたCT再構成アルゴリズムの改良をした。また、考案したアルゴリズムとプログラムをPCT出願した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度はベイズ統計を用いたCTシステムの設計を行い、Matlab等の既存のアプリケーションを用いて超解像CTアルゴリズムを実装し、低画素数における提案システムの評価を行ったので、今年度は従来法で発生するアーチファクトの削減効果の確認と構築した超解像CTアルゴリズムを大規模問題に対応させるシステムの開発を行った。FBP法で発生する角度制限により発生するアーチファクトに対する提案アルゴリズムによる処理能力の評価を行ったところ、角度制限を受けたシノグラムに対しても超解像像取得が可能である事が証明できた。本超解像アルゴリズムはその性質上処理画像の二乗、ボクセルであれば、三乗で処理規模が大きくなる。これは、処理アルゴリズムの中で処理データの大きさに比例する行列を用いるからである。ただし、実際の所用いる行列は大部分が0を取るスパース行列である。処理行列の対称性が高い場合は、大幅な計算量の削減ができるが、行列に位置ずれ情報を含むために、若干対称性は失われ、スパース行列の形はズレの大きさに依存する。その上、ズレは一般的に揺らぐために固定したスパース行列では、対応しきれない。加えて現在の所、並列処理における確立した効率的なスパース行列処理方法は無く、処理アルゴリズムの試行錯誤が現在も続いている。前年度は当初の研究計画から多少前後したものの、全体の中核となるベイズ統計を用いたCTシステムの構築に成功し、株式会社東京大学TLOを通じて開発したアルゴリズムとプログラムの特許出願を行い、その内容が東京大学TLOに高く評価され、PCT出願する運びになったので、研究計画の大部分を達成できたと考えているが、並列処理アルゴリズムの構築が若干遅れ、トータルで当初の計画通りに進んでいるので、おおむね目標は達成できたという評価になった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現在構築中の並列コンピューティングテクノロジーを用いた提案システムの実装を完成させる。GPU(Graphic Processing Unit)やCUDA(Compute Unified Device Architecture)といった既存並列処理テクノロジーを利用して並列処理CTシステムを構築し、並列化による提案システム再構成処理の高速化を図る。次に3次元化に対して本手法を適応する。現在断層像作成は、ラインスキャンや2次元投影像からシノグラム(測定角毎の投影像をまとめた2次元画像)を作成し、シノグラムより断層像を再構成している。投影像セットから直接ボクセルデータとして再構成することで、高精細化及び高速化を図る。次にこれまで扱わなかったアーチファクト生成過程とその解消法を検討する。情報欠損によるアーチファクト(メタルアーチファクト等)の低減には適切な事前分布を選択する事で対応する。また、コーンビーム等の特殊なビーム形状やヘリカルスキャン等の特殊な走査形態の投影過程を考察し、変換行列式を構築する事でアーチファクト低減を図る。最終的に、データベース等から構成される事前知識と逐次的に与えられる投影像を入力として高速かつ良質な再構成像を推定するシステムを構築する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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