機械的補助循環デバイスの発展に伴い、1ヶ月程度の中長期的な体外補助循環を行い、生体心臓の回復を図る医療も広まりつつあり、補助期間の長期化が予想される。循環中では、出血、赤血球破壊、血栓形成などの血液に関する問題がしばしば起こるが、これらは定期的な採血によって、その程度を診断しており、貧血、対応の遅れ、また感染症に繋がることが問題となる。長期間安全で信頼性の高い体外補助循環を実現するために、光を用いた血液の非侵襲モニタリングは大いに貢献できると考えられるが、臨床上信頼を得ている光計測はパルスオキシメトリーのみであるのが現状である。光によって定量的に、そして多項目の血液診断を実現するために、①体外循環回路を流動する血液内光伝播モデル、②血漿光計測法の開発、③血栓の光学特性調査を行った。 ①について、開発した血液内光伝播モデルを用いて、ヘマトクリットを採血測定との誤差1%程度の測定を達成し、モデルの妥当性を確認した。②について、「プラズマスキミング効果」に着想を得た血漿光モニターを開発した。プラズマスキミング効果とは、血液が流動したとき、血球細胞群は血管の中心付近に集中して流動し、血管壁付近には血球細胞がなく、薄い血漿層となる現象である。このことから、体外循環の流路壁と血漿層の境界で反射した光のみを分光することで、全血まるごとの状態で血漿物質だけの情報を取得できるようになった。これにより、溶血による血漿中のヘモグロビン濃度を約5mg/dLの精度で採血せずに定量できるようになった。③について、ハイパースペクトラルイメージングにより、連続流血液ポンプ内血栓の分光イメージングを行い、全血と血栓のスペクトルの差異を利用して血栓の非侵襲イメージングを達成した。血栓の光学特性は、血栓内赤血球密度が、周囲の血流に依存して変化し、それに伴い全血との光学特性に差が生じることが示唆された。
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