平成24年度においては、前年度に開発を行った計測システムにより安静呼吸時における胸腹部の三次元形状変化を計測し、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の病状・重症度の関連性の解明について検討を行った。 われわれは、これまでの研究の中で、COPD患者の安静状態の呼吸波形の形状が、呼気の終末期に呼気にともなう胸腹部の運動が停止するようなHaving end-expiratory pause型と,呼気の胸腹部の運動が長く継続する Having prolonged expiration型の2通りに分類されることを示しており、後者に重篤な症例が多いことから、安静状態の呼吸の波形形状がCOPDの重篤度に関係するものと考えた。そこで、安静時の呼吸波形に自己組織化マップ(SOM)を適用することで、呼吸波形形状に基づく分類を行った。スパイロメトリーでCOPD患者と判断された群(9名)と健常者と判断された群(10名)を対象として非接触呼吸計測を行い、複数の被験者による呼吸波形形状をSOMモデルの入力層に与えることでそれぞれの波形の類似度がマップ上における距離として出力された。SOMにより出力された二次元マップにおいては、一部例外はあるものの、健常者群とCOPD患者群とはそれぞれ分離して分布することが明らかとなった。また、COPD患者の呼吸波形が上記の2種類の型に分類可能であるという仮定の元、この2種類の型に健常者型を加えた3種類の型に呼吸波形を専門医が分類した結果と、SOMによる分類結果とが、ほぼ一致していることが確認され、われわれの仮定の妥当性が示唆された。 本研究の成果により、これまで、呼吸気流を直接計測することでしか診断することができなかったCOPDスクリーニングが、胸腹部の体積変化および三次元形状変化の計測によって実現できるようになる可能性が示唆された。
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