研究課題/領域番号 |
23700583
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
橋本 卓弥 東京理科大学, 工学部, 助教 (60548163)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 患者ロボット / アンドロイドロボット |
研究概要 |
本研究では,姿形が人間に酷似したアンドロイドロボットSAYA(以下,SAYA)を模擬患者として用いた精神医学教育用の面接演習システム(患者ロボット)の研究開発を目的とする.人間の模擬患者の場合,訓練に時間が掛かる,人によって再現する症状に差が生じる,責任が大きい,人材不足,などの問題があるが,これをロボットで代替した場合,同じ症状を全く同じ状態で繰り返す事ができ,いつでも再現性のある訓練を行うことができると考えられる.また,予め用意しておけば,症状の切り替えも容易である.さらに,SAYAのように人間に酷似したアンドロイドを用いることにより,臨場感(リアリティ)のある問診の演習が実現できると期待できる.本研究では,特に,現代において極めて罹患者が多いと言われる"うつ病"を主に取り上げる.本研究の具体的な内容は,(1)精神疾患患者ロボットのハードウェアとソフトウェアおよび操作インタフェースの開発,(2)アンドロイドロボットによる症状の再現性の検証,(3)実証実験による提案システムの有効性の検証,の3項目である.本年度では,主に項目(1)について取り組み,(2),(3)の項目についても一部取り組んだ.項目(1)では,まず,患者ロボットとその操作システムの開発を行った.SAYAの操作システムの開発では,問診のシナリオに従ってロボットの発話や動作を予め登録しておき,タッチパネルで簡単にSAYAの操作を行えるインタフェースの開発を行った.問診のシナリオの作成では,うつ病診断に広く用いられているハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)を原版とした構造化面接版(SIGH-D)を基に,質問とその回答のシナリオを用意した.次に,項目(2)(3)では,実際の精神医学教育における実証実験として開発した患者ロボットを用いた面接ロールプレイを実施し,その再現性と教育効果について検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,(1)精神疾患患者ロボットのハードウェアとソフトウェアおよび操作インタフェースの開発,(2)アンドロイドロボットによる症状の再現性の検証,(3)実証実験による提案システムの有効性の検証,の3項目である.この3つの目的の内,本年度では主に項目(1)に注力し,精神疾患患者シミュレータのプラットフォームの開発を行った.ハードウェアには申請者らのこれまでの研究の成果物であるアンドロイドロボットSAYAを改良したものを用いており,高い耐久性を実現している.制御ソフトウェアおよび操作インタフェースに関しては一から開発を行ったが,実証実験を通して改良を行い,十分に実用的なものが完成している.また,うつ病の問診シナリオの作成では,研究や臨床の場で広く用いられているハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)を原版とした構造化面接版(Structured Interview Guide for the Hamilton Depression Rating Scale,SIGH-D)を基に質問とそれに対応する回答を用意し,実際の問診に近い内容で問診訓練を実践できるようにした.以上の観点から,項目(1)の目標は十分に達成できたと評価できる.項目(2)(3)についても一部検討を行っており,長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の中根秀之教授の協力の下,精神科医師や医学部の学生を対象として開発した患者ロボットを用いた実証実験を実施し,SIGH-Dを用いた面接演習を行った.その結果,患者ロボットに対する医師や学生の関心が高いことが明らかとなり,いくつかの改善点も見出された.しかしながら,症状の再現精度や教育効果に関する評価は十分に行えなかった.以上の観点から,項目(2)(3)の達成度は6割程度と判断する.
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今後の研究の推進方策 |
今後(平成24年度)は,(1)システムの高度化,(2)実証実験と再現精度の向上,(3)研究の総括,を主に行う.まず,項目(1)のシステムの高度化では,前年度の実証実験の際に得られた知見を基に,アンドロイドロボットSAYAの発話や動作などの改善を行い,再現精度を向上させる.さらに,操作インタフェース等の改良も行い,システムの使い勝手を向上させる.また,当面はうつ病の一症状(最重症)のみに絞って検討を行う予定だが,高い再現精度が見込みる段階で,正常,軽症,重症など,数種類の症状も再現できるようにする.さらに,うつ病との区別が難しいとされる不安障害の症状についても再現することにより,各症状を判別するための訓練に応用することも検討する.次に項目(2)では,前年度と同様,実際に精神科医師や医学部の学生に患者ロボットとの面接ロールプレイを行ってもらう.そして,SIGH-Dに基づいて評価してもらい,前年度では評価が不十分であった症状の再現精度と教育効果について詳細に検証する.なお,教育効果については,これまでの精神医学教育で実践されてきた既存の方法との比較によりその効果を評価することを検討している.また,初めの段階ではうつ病の最重症の症状のみについて検討する予定であるが,その他の症状を呈する患者ロボットも用意し,症状の判別精度についても調査することを検討している.最後に項目(3)では,平成23,24年度の研究成果を基に,アンドロイドロボットを用いた精神疾患患者シミュレータの開発に関する設計指針をまとめる.つまり,システムの仕様や,精神疾患(特にうつ病)症状の再現手法についてまとめると共に,その再現精度や教育的効果を明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度への繰越額は24千円であるが,元々ロボットの輸送費や材料の工作・加工費,学会の参加費,会議費のための予算として計上していたが,大学内の別の予算で支出した費用もあるため,未使用分を次年度のその他の予算として繰り越すことにした.ハードウェアのメンテナンス代として,金属材料,電子部品,空気圧機器,アクチュエータ(McKibben型人工筋肉)の購入費を消耗品費(350千円)として計上した.国内の学会に1~2回出席する予定であり,国内旅費(25千円)として計上した.また,国外の学会にも1~2回出席する予定であるため,そのための旅費(360千円)も計上した.長崎大学で1~2回の実証実験を予定しているため,そのための国内旅費(25千円)を計上した.また,1~2人の学生に実証実験での補助やデータ整理をお願いするため,そのアルバイト代を謝金等(40千円)として計上した.学会の参加費,工作・加工費,会議費,論文投稿料をその他(100千円)として計上した.
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