本研究では,精神医学教育における面接演習用として,姿形が人間に酷似したアンドロイド・ロボットSAYAを模擬患者として用いた模擬面接システム(患者ロボット)の研究開発を目的とした.現在,人間の模擬患者を用いた面接演習は行われているが,訓練に時間が掛かる,人によって再現する症状に差が生じる,責任が大きい,人材不足,などの問題がある.そこで,模擬患者をアンドロイド・ロボットで代替することにより,臨場感(リアリティー)を保ちつつ再現性のある訓練が実現できると期待できる. 本研究では,極めて罹患者が多いと言われる“うつ病(特に単極型うつ病)”を対象に,主に,(1)精神疾患患者ロボットのハードウェアとソフトウェアおよび操作インタフェースの開発,(2)アンドロイド・ロボットによる症状の再現性の検証,(3)実証実験による提案システムの有効性の検証,の3項目について取り組んだ.この内,項目(1)は前年度まででほぼ完成していたため,本年度では,主に項目(2)(3)について実施した.まず,項目(2)では,SIGH-D(ハミルトンうつ病評価尺度 HAM-D構造化面接ガイド)に従って面接を行っている医師と模擬患者(最重症の症状を再現)の様子を映した面接演習用の動画を観察し,模擬患者の特徴的な言動を抽出した.そして,抽出した模擬患者の発話や動作を項目(1)で開発した面接演習システムの患者ロボットで再現できるようにした.次に,項目(3)では,精神科医師や精神医学を学ぶ学生を対象として,開発した患者ロボットを用いた面接ロールプレイを実施した.そして,患者ロボットで設定した重症度と医師または学生が診断した際の重症度を比較する事により,患者ロボットの再現性を検証した.また,質問紙を用いて患者ロボットの有効性や有用性,教育効果についても調査を行った.
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