研究課題/領域番号 |
23700612
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
谷口 圭吾 札幌医科大学, 保健医療学部, 講師 (90381277)
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キーワード | リハビリテーション / 理学療法 / 評価学 / 超音波 |
研究概要 |
本年度の研究では,最新工学技術である超音波剪断波エラストグラフィを応用し,ヒト生体における骨格筋の組織弾性,即ち硬さを非侵襲的に画像化し,客観的な指標で定量評価する方法を検討した.更に,関節可動性と筋組織の弾性特性の関係を探索した. 硬さの定量評価は,その評価方法の確立に向けて,超音波ビームによる微細振動からの剪断波伝播速度に基づいて取得される剪断弾性係数の計測における信頼性と妥当性を検討した.腓腹筋を対象とした安静時弾性係数の測定値の再現性は,0.9以上の級内相関係数,4%未満の変動係数および0.2キロパスカルの測定標準誤差が得られたことから非常に良好であることが明らかとなった.また,取得される筋の弾性係数は,腱・腱膜に対して斜めに走行する筋線維の傾斜角度,即ち羽状角の影響を受けることが懸念される為,特製のファントムや生体に近似した御遺体を使用して測定値の妥当性を確認した.その結果,剪断弾性係数は羽状角の程度に影響される可能性を示す現象が実証された.従って,超音波剪断波法を用いた骨格筋の硬度評価では,個々の筋が有する形状特性を十分に考慮することが必要であることが示唆された. 関節可動性と筋硬度の関係は,足関節の他動的な背屈角度と腓腹筋の安静時弾性係数との相関分析により検討した.その結果,背屈角度と腓腹筋の弾性係数との間には負の相関関係(-0.74 ~ -0.67)にあることが明らかとなった.このことから,安静時の筋硬度が低いほど関節柔軟性は高い可能性のあることが示された.今回の検討は,リハビリテーション領域における筋スティフネスの定量評価法の構築や関節可動域制限の改善に対する運動療法の開発・効果判定に向けた基盤資料となり得る.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リハビリテーションを展開する上で骨格筋の可塑性解明とその多面的な定量評価法の確立に向けて,研究目的の達成に影響がない範囲で現在までに研究内容の遂行順序が多少前後するものの,当初の研究目的で掲げた次世代イメージング法を用いた筋組織の粘弾性の定量評価方法の構築ならびに力学的因子に基づく運動療法の開発に向けた検討について予定通り進捗している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,これまで取得した基礎資料を基づき,次世代イメージングの超高速超音波法による定量的な筋スティフネスの臨床評価法の確立に向けて,改良型弾性ファントムや御遺体の筋組織を使用した妥当性の検証を更に進めるとともに,弾性係数に及ぼす体液変化の影響を明らかにしてゆく.また,超音波ドプラ法による筋内微小循環動態の定量評価法を検討し,力学的・代謝的因子に及ぼす運動の影響を包括的に分析し,運動療法効果の機序解明や新規の運動プログラム開発に向けた基盤研究を推進する.最終年度にあたる本年度は,リハビリテーション科学やスポーツ医科学分野の国際学会ならびに国際誌に本研究で得られた新知見を積極的に公表する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度に若干の未使用の研究費が生じた理由は,実験材料に要する費用が見込みよりも少額となったこと,更にデータ解析処理の協力に要する時間が当初の見込み予定時間よりも短縮でき,謝金の実支出が少額となった為である.また,繰り越される研究費は翌年度に割り当てた研究費と合わせて,弾性ファントム作製や足関節張力計に要する物品費に計上する予定である.他の旅費,謝金,その他の直接経費は交付申請書に記載した内容で当初の計画通り執行する予定である.
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